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山﨑晴人 ⑩

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「瑞稀……元気にしてた?」
 あたりさわりのない。
 でも一番聞きたかったことを聞いたこと。
「はい」
 俯きいているので、表情が見えない。
 でもわかる。声色で。
 緊張して、警戒して、敵に隙を作らないようにしている時の声。

警戒されてる。

 初めて会った時、晴人を見た瑞稀は緊張していたが、警戒されたことはなかった。
 胸が痛かった。
 瑞稀に自分は敵だと認識されている。
 世界中、誰よりも愛しいる人に拒否され…。
 瑞稀の笑った顔が思い浮かばれる。

あの笑顔は、もう俺には向けられないのか?
俺は見られないのか……?

 こんなに警戒されるとは、思っていなかった。

やっぱり、俺は瑞稀に何かしてしまったんだ。
あの優しい瑞稀が心を閉ざしてしまうほどの何か……。

 原因を知りたい。
 でも知って、どうにもならないことだったら?
 知ってしまったからこそ、もう会えなくなってしまったら……。
 今はそれが怖い……。
 今にも消えてなくなりそうな瑞稀との関係の糸を、晴人は切れてしまわないようにと必死に掴んでいる。
 だけど、どうしも気になることがある。
 聞いてはいけないと、わかっているのに……。

「千景君は元気?」
 しまったと思った時には、もう聞いてしまっていた。
「え!?」
 弾かれたように顔を上げた瑞稀の顔は、驚きと同時に不安そうな表情だった。
「副社長から聞いたんだ。瑞稀には『千景君』っていう男の子がいるって」

 副社長先輩から聞いたことは、隠せない。
 
「はい、元気です」
 瑞稀は緊張で顔が引き攣りそうになりながらも、晴人から目を逸らさない。
「4歳……だって?」
「はい。4月で5歳になります」
「そうなんだ。瑞稀に似て可愛いんだろうな」
 
 瑞稀と一緒にいた時、もし子どもができたら、絶対に瑞稀似がいいと思っていた。
 色白で綺麗なブルーの瞳で、輝くような銀色の髪。
 芯はしっかりした強さを保ちつつ、優しい子。
 まだ見ぬ2人の子供のことを思い浮かべ『でもそれじゃあ瑞稀そのままじゃないか』と自分自身に笑ってしまっていた……。

「僕には似てないですよ。どちらかといえば……」
 そこまで言って、瑞稀は慌てて口を押さえた。
「父親似?」
「はい……」
 恐る恐る瑞稀が答える。
「父親って、瑞稀が手紙に書いていた『好きな人』?」
 自分で聞いておきながら、瑞稀の好きな人のことを聞くと、胸が締めつけられるように苦しい。
「……」
 長い沈黙の後、
「はい……」
 瑞稀ら答えた。
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