上 下
95 / 202

思い出のクッキー ⑥

しおりを挟む
 午後からの仕事も定時に終わり、保育園に千景を迎えに行く。
 どんなに仕事が忙しくて大変でも、保育園に迎えに行った時、満面の笑みで「ママ!」と瑞稀の元にかけてくる千景を見ると、一日の疲れなんて始めからなかったかのようになる。
 
「千景、今日は保育園でなにして遊んだの?」

 千景と夕食を食べながら、今日あった話を聞くのが瑞稀は大好きだ。

「今日はね、しずくくんとお外で遊んだりパズルしたよ。あとねしずくくんのママとお腹の赤ちゃんと、すばるくんに折り紙折ってあげたんだ」

昴くんて…副社長のことだよね。

 雫の影響か、千景の中で昴は『雫くんのおじさん』ではなく、『昴くん』になっているようで、瑞稀は苦笑いした。

「みんなよろこんでくれるかな?」

 千景は心配そうに視線を落とす。

「千景は一生懸命作ったんでしょ?」

「うん。つくった」

「じゃあ雫くんのママも赤ちゃんも、昴くんもみんな喜んでくれると思うよ。ママも千景が作ってくれたものは、なんでも嬉しいよ」

 千景は瑞稀に頭を撫でられて、くすぐったそうに笑った。

「あ!そうだ!」

 瑞稀は鞄の中から、晴人からもらったクッキーを取り出す。

「ママのお仕事先の人がね、クッキーくれたんだけど、ご飯全部食べられたら、ママと一緒に食べよっか」

「え!?いいの!?」

 夕飯の後にお菓子を食べるのは特別な時だけ。

「せっかくいただいたから、今日だけ特別ね」

「やった~!」

 それまで千景はカレーに入った苦手なにんじんを、こっそり皿のすみに避けていたが、クッキーが登場してからは、渋い顔をしながらも懸命に人参を食べる。

そういえば晴人さんもにんじんが苦手で、カレーの時こっそりお皿の隅に避けてたっけ。

 そんなことを思い出し、

親子って好き嫌いも似るのかな?

 と、笑ってしまった。

 大急ぎでカレーとサラダを食べた千景は、ソワソワしながらクッキーを待つ後姿が可愛すぎて、瑞稀はこっそりスマホで写真を撮る。

「はい、ど~ぞ」

 千景の前には皿にのせたクッキーとコップに入った牛乳を、その向かいに座る瑞稀の前にはカフェオレを置いた。

「召し上がれ」

「いただきま~す」

 千景が手を合わせ、個包装のクッキーを開ける。
 一口パクリと食べるっと、ぱぁ~と顔を輝かせ、もう一口食べる。
 皿にのせられていたクッキーをペロリと食べると、口には出さないが「もう一つ欲しいな」と言う目で、瑞稀をチラリと見る。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

処理中です...