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思い出のクッキー ④

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あ……。
結局もらったままになってしまってる。

 副社長室から離れた廊下で、はじめて瑞稀は晴人からもらったクッキーを返しそびれたことに、気がついた。

どうしよ。
クッキーを持ったままでは仕事ができないし、今から返しに行けば副社長にも会ってしまう。

 晴人との関係を知っている昴に、晴人と一緒にいるところを見られてしまい会うのが気まずかった。
 瑞稀はとりあえず晴人かっらもらったクッキーをロッカーに入れておいて、後で返しに行こうと決めた。

 その後、午前中の仕事もつつがなく終わり、昼休憩となった。
 幸恵と和子と共にロッカールームに行き、ロッカーから弁当を出した時、晴人からもらったクッキーの袋が床に落ちた。

「あら、瑞稀くんなにか落ちたわよ」

 幸恵が拾い上げる。 

「それは……」

 瑞稀は今朝の出来事を話すと、

「でもそれじゃあ副社長は、瑞稀くんと山崎さんの関係を前から知ってたみたいじゃない?」

 さすがというべきか、幸恵の感は鋭い。

もう話すしかない……。

「今までお話していなくてすみません。実は……」

 瑞稀は話した。

「そうだったのね。瑞稀くんも大変だったのね。私たちにできることはない?」

 和子はそう言ってくれるが、

「僕は僕自身がどうすべきかわかっていなくて……」

 瑞稀も身の振り方がわからない。

 もう会わないし会えないと思っていた晴人と、全くの偶然とはいえ再会したことや、またこれからも会いたいと言ってくれたことが嬉しかったのも事実。
 でも今後も会い続けていいものなのか、わからないことだらけだ。

「確かに一日で、そんなにたくさんのことが起きたら、誰だって困ってしまうものね。とりあえずは瑞稀くんの気持ちを一番に、ゆっくり考えたらいいよ。それでもし瑞稀くんの気持ちを待てないような人だったら、それだけの人だよ」

 幸恵が言うと、隣で和子も大きく頷いた。

「ありがとうございます」

 瑞稀には義父父親も母親も妹もいるが、今は離れて暮らし、瑞稀と晴人の関係を知らない。
 だから幸恵や和子はなんでも話せる、二人のははのような存在で、そんな幸恵や和子が瑞稀の味方になってくれることは、この上なく心強かった。

「それじゃあそのクッキーはどうする?もし返しに行こうと思っているけど、行きにくかったら私たちが行ってくるけど、どうする?」

 瑞稀は袋を見た。

本当は返すべきなんじゃないだろうか?

 だが瑞稀がこのクッキーがまだ好きだと入った時の晴人の笑顔が、忘れられない。

もし返したら、晴人さんのあの笑顔、曇らせてしまうのだろうか……?
 
「このクッキーは皆さんと一緒に食べてといただいたので、お二人がよろしければ一緒に食べませんか?」

「まぁそれはいいわね」

「いつもいく休憩室には自動販売機もあるし、クッキーは食後にいただきましょう」

「はい!」

 三人は休憩室に向かった。
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