上 下
46 / 202

不安 

しおりを挟む

「……くん…、稀くん…、瑞稀くん……」

「!!」

 開店準備中、後から何度もオーナーに呼ばれていたことに気づいた瑞稀は、肩をビクっとさせ、振り返る。

「何度も呼ばれていたのに、気づかずすみません…」

「いや、大したことじゃなかったんだが…。瑞稀くん、悩み事?」

「え?」

「最近、顔色良くないし、1人の時は上の空だろ?ちょっと気になってて…」

「ぼーっとしてましてしまい、すみません」

 仕事中にも関わらず、仕事に集中できていなかったことを謝った。

「いや、それはいいんだ。でももし悩み事があるなら…」

 オーナーがそこまで言いかけた時、

「いえ、大丈夫です。ご心配とご迷惑をお掛けして、すみません」

 深々と瑞稀が頭を下げる。

「ならいいんだけど…。何かあったらいつでも力になるよ」

 そういいんがらオーナーは瑞稀にグリーンスムージーを手渡すと、

「開店まで裏で休んでいるといいよ」

 そう言い、瑞稀のそばを離れた。


 妊娠の件、晴人と両親の件を知ってから、瑞稀の頭の中は、どうすれば解決するのか?を、ずっと考えている。
 だが、どう考えてもいい案が浮かばない。
 八方塞がり。
 瑞稀と晴人が別れれば、全てうまくいくのではないか?と考えてしまうほどだ。
 だがそれはどうしてもできない。
 晴人を愛してしまった瑞稀は、もう晴人のいないこれからなんて、考えられないのだ。

晴人さんに妊娠のことを話す?
プロポーズしてくれたじゃないか…。
僕との結婚は考えてくれていても、晴人さんは子供を欲しがっていないかもしれない。
それに晴人さんと僕は、まだ番でもない。
そんな状況で、子供の話は…。

 そんなことを考えたり、

ご両親との確執をどうにかするには?
晴人さんとの仲を認めてもらえるまで、何度も僕がご両親に話に行くべき?
説得すべき?
僕にそれができるだろうか?

 色々なことを考えてしまう。
 だがどれもこれも答えが出ない。
 時間だけが過ぎていき、その間も、瑞稀のつわりは酷くなっていた。
 お腹の膨らみも徐々に大きくなり、今晴人に触れられたら、気づかれてしまいそうだ。

 同棲を初めてから、晴人からのスキンシップや体と体の触れ合いが以前に比べ、少しずつ多くなってきていたが、最近では瑞稀が晴人の事を避けるようになってしまっている。
 自分が悪いことは百も承知だが、その度に悲しそうな晴人の姿を見ると、瑞稀の心は張り裂けそうだ。

晴人さん…。

 また瑞稀は晴人からの指輪に触れる。
 ポケットに入っているスマホを見ると、

『今日、迎えに行くよ』

 晴人からメッセージが入っていた。

明日も早い出勤なのに…。

 夜勤の日以外、毎日、晴人は睡眠時間を削り瑞稀を迎えにきていた。
 家事もほとんど晴人がし、食事は瑞稀が食べられるものばかり作っていた。
 そんな晴人の優しさに触れ、晴人に対しての愛しさが溢れる一方、自分の存在自体が晴人の負担や重荷になっていることが不甲斐なかった。

 少し、外の風にあたりに行こう…。

 オーナーに声をかけ、瑞稀は外へ出た。
 バーの近くは晴人と並んで歩いた思い出も、緊張しながら待ち合わせの場所に急いで掛けて行った思い出もある。
 
初めて晴人さんと手を繋いだのは、ここだったっけ…。

 店の近くの自動販売機の近くで立ち止まっていると、

「成瀬…瑞稀さん?」

 背後から女性の声で名前を呼ばれた。

「?」

 瑞稀が声のする方に振り返ると、

「奥様!」

 そこには夏用の着物を着て、真っ白生地に白い刺繍がしてある日傘をさした、晴人の母親が夕日を背に立っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】その家族は期間限定〜声なきΩは本物に憧れる〜

天白
BL
オメガバース。家族モノ。ほっこりハッピーエンドBL。R18作品。 ~主な登場人物~ ・須中藍時…24歳。男性のΩ。フリーター。あることがきっかけで、純の「ママ」として扇家で働くことになる。失声症を患わっており、手話と筆談で会話する。なぜか純の前でのみ、声を出して話すことができる。秀一の妻であるヒナに顔立ちが似ているらしい。身長は168㎝。 ・扇秀一…31歳。男性のα。純の父親。大柄な男で強面だが、他人には優しく穏やかに接する。藍時の雇い主。仕事人間で一年前に妻に逃げられたと藍時に話す。身長は198㎝。 ・扇純…4歳。秀一の息子。出会った当初から藍時をママと呼んでいる。歳のわりにしっかり者だが、まだまだ甘えん坊なママっ子。 〜あらすじ〜 恋人からの暴力により声を失い、心と身体に深い傷を負ったΩの青年・須中藍時は己の人生を悲観していた。人知れずして引っ越した場所では、頼れる家族や友人はおらず、仕事も長く続かない。 ある日、藍時は自分を「ママ」と呼ぶ迷子の少年・扇純と、その父親・扇秀一に出会う。失われたと思っていた声は、なぜか純の前では出せるように。しかしαの秀一に得体の知れない恐怖を感じた藍時は、彼らからのお礼もそこそこに、その場から逃げ出してしまう。 そんな二人の出会いから一週間後。またも職を失った藍時は、新たな仕事を求めて歓楽街へ訪れる。そこで見知らぬ男達に絡まれてしまった藍時は、すんでのところを一人の男によって助けられる。それは秀一だった。 気を失った藍時は扇家にて介抱されることになる。純は変わらず藍時のことを「ママ」と呼び、終始べったりだ。聞けば純の母親は夫である秀一に愛想を尽かし、家を出て行ってしまったという。藍時はそんな妻の顔に、よく似ているらしいのだ。 そしてひょんなことから提案される「家事代行ならぬママ代行」業。期限は純の母親が戻ってくるまで。 金も職もない藍時は、秀一からの提案を受けることに。しかし契約が交わされた途端、秀一の様子が変わってしまい……? ※別サイトにて以前公開していました自作「FAKE FAMILY〜その家族は期間限定!?〜」(現在は非公開)を改題、リメイクしたものになります。 Pixiv、ムーンライトノベルズ様でも公開中です。

国で一番醜い子は竜神の雛でした。僕は幸せになれますか?

竜鳴躍
BL
~本当は美しい竜神の子と亡国の王子の物語~行商人のお兄さん×成人したての竜神。 ダスティは孤児である。鱗のようなものが全身にあり、醜いので引き取り手もなく、教会で下働きをしていた。唯一可愛がってくれた行商人のグランド様をひそかに慕っている。ある日、やっと引き取られた先は見世物小屋で―――――。その時、グランド様が助けに来てくれた。傷を負っても助けてくれた彼を守りたくて、僕は羽化する。

貧乏Ωの憧れの人

ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。 エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの

【完結】後宮に舞うオメガは華より甘い蜜で誘う

亜沙美多郎
BL
 後宮で針房として働いている青蝶(チンディエ)は、発情期の度に背中全体に牡丹の華の絵が現れる。それは一見美しいが、実は精気を吸収する「百花瘴気」という難病であった。背中に華が咲き乱れる代わりに、顔の肌は枯れ、痣が広がったように見えている。  見た目の醜さから、後宮の隠れた殿舎に幽居させられている青蝶だが、実は別の顔がある。それは祭祀で舞を披露する踊り子だ。  踊っている青蝶に熱い視線を送るのは皇太子・飛龍(ヒェイロン)。一目見た時から青蝶が運命の番だと確信していた。  しかしどんなに探しても、青蝶に辿り着けない飛龍。やっとの思いで青蝶を探し当てたが、そこから次々と隠されていた事実が明らかになる。 ⭐︎オメガバースの独自設定があります。 ⭐︎登場する設定は全て史実とは異なります。 ⭐︎作者のご都合主義作品ですので、ご了承ください。 ‪ ☆ホットランキング入り!ありがとうございます☆

ロンドンの足長おじさん

花町 シュガー
BL
『これが僕らの〝出会い〟、僕らの運命。 ーーでも、こんな形があってもいいと思うんだ。』 シルクハットの似合う長身のおじさんが、僕の運命の番でした。 運命の番との出会いを断る大人の、長い長い言い訳の物語。 〈おじさん × 高校生〉オメガバース この作品は、Blove様主催【第一回短編小説コンテスト】にてグランプリをいただきました。 ------------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるハッシュタグです。 お手すきの際に覗いていただけますと幸いです。

アルファ嫌いの子連れオメガは、スパダリアルファに溺愛される

川井寧子
BL
オメガバース/オフィスラブBL/子育て/スパダリ/溺愛/ハッピーエンド ●忍耐強く愛を育もうとするスパダリアルファ×アルファが怖いオメガ●  亡夫との間に生まれた双子を育てる稲美南月は「オメガの特性を活かした営業で顧客を満足させろ」と上司から強制され、さらに「双子は手にあまる」と保育園から追い出される事態に直面。途方に暮れ、極度の疲労と心労で倒れたところを、アルファの天黒響牙に助けられる。  響牙によってブラック会社を退職&新居を得ただけでなく、育児の相談員がいる保育園まで準備されるという、至れり尽くせりの状況に戸惑いつつも、南月は幸せな生活をスタート!  響牙の優しさと誠実さは、中学生の時の集団レイプ事件がトラウマでアルファを受け入れられなかった南月の心を少しずつ解していく。  心身が安定して生活に余裕が生まれた南月は響牙に惹かれていくが、響牙の有能さが気に入らない兄の毒牙が南月を襲い、そのせいでオメガの血が淫らな本能を剥き出しに!  穏やかな関係が、濃密な本能にまみれたものへ堕ちていき――。

【本編完結】おじ様好きオメガは後輩アルファの視線に気が付かない

きよひ
BL
番犬系後輩アルファ(24)×おじさま好き鈍感オメガ(26)のリーマンボーイズラブコメ。 オメガ性の藤ヶ谷陸は、父親くらい年上のおじさまアルファが大好きな営業マン。 だが番のいるアルファに憧れを抱くせいで、取引先とトラブルになることも。 その度に、仕事の後輩でありアルファである杉野誠二郎に「自覚が足りない」と叱られてしまう。 本人は至って真面目に恋愛したいだけだというのに。 藤ヶ谷と杉野がバーで飲んでいたある夜、理想のおじさまアルファが藤ヶ谷に声を掛けてきた。 何故か警戒している杉野が幾度も水を差すが、舞い上がった藤ヶ谷はどんどんおじさまに惚れ込んでいく。 そんな中、藤ヶ谷にヒートがやってきて……。 不器用な2人が一進一退しながら両思いになりたい物語。 ※なかなかくっつきませんが、ハピエンです。 ※R18シーンは、挿入有りの話のみ★をつけます。挿入無しは⭐︎です。 ●第11回BL小説大賞応募作品です。応援・感想よろしくお願いします!! *オメガバースとは* 男女性以外にアルファ、オメガ、ベータという第二性がある世界 ・オメガには発情期(ヒート)があり、甘いフェロモンを出してアルファをラット(発情期)にさせる。 ・ヒート中、アルファとの性交行いながらオメガがうなじ(首周り)を噛まれることで番関係が成立する。 ・番関係にあるオメガのヒートは番のアルファ以外には分からなくなる。 ・アルファは何人でも番を持つ事が可能だが、オメガは1人しか番えない。 ・アルファから番解消することは出来るが、オメガからは基本的には解消することは出来ない。

処理中です...