上 下
44 / 202

!!!! ③

しおりを挟む
 
 午前3時半。
 その日、瑞稀はなんとか笑顔で仕事を終えた。

「お疲れ様した」

 その日の売り上げの集計をしているオーナーに挨拶する。

「お疲れ様。今日はゆっくり休みな。明日、体調悪かったら仕事、休んだらいいから」

「いつもありがとうございます」

 オーナーの気遣いに感謝しながら、店をあとにした。
 
 1人、家路につくと、今日聞いてしまった奈子とオーナーの話が、頭の中でぐるぐる回る。

妊娠のこと、晴人さんに話すべきか…話さないべきか…。

 瑞稀は無意識のうちに、首からぶらっ下げている指輪を服の上から触れた。

話せば晴人さんを困らせるだけじゃないだろうか…。

 そんなことを考えていると、

「瑞稀、おかえり」

 店の近く、よく一緒に住む前、晴人が瑞稀を待っていた場所に、晴人が瑞稀を迎えにきていた。

「晴人さん…」

 晴人の顔を見ると、いつも駆け寄ってしまう瑞稀だったが、今日は少しためらった。

「どうしてここに?」

 今日あった出来事を、晴人に話すか決めかねていた瑞稀はそんなことを言ってしまった。

オーナーマスターから、瑞稀の体調が良くないって連絡きてたから、迎えに来たんだよ」

 晴人は瑞稀に右手を差し出すと、瑞稀はその手えを握る。

「本当は連絡もらった時、すぐに迎えに行こうかと思ったんだけど、それは瑞稀が嫌がるかもって思ってね。瑞稀、バーテンダーの仕事、好きだからね」

 自分のことを良く知ってくれていて、仕事にも理解がある晴人の気持ちが嬉しかった。

「今の仕事をしていたから晴人さんと再会できましたし、行き場のない僕に手を差し伸べてくれたオーナーに恩返しがしたいんです」

 自分の力で恩返しができるかわからない。
 でも、少しでも力になれることがあったら、していきたいと、瑞稀はずっと思っている。
 自分に対して、とても優しくしている家族を、自ら遠ざけてしまっていることに悩んでいる時、手を差し伸べてくれたオーナー。
 利害関係なく居場所を作ってくれたオーナー。
 オーナーを兄のように、瑞稀は慕っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】その家族は期間限定〜声なきΩは本物に憧れる〜

天白
BL
オメガバース。家族モノ。ほっこりハッピーエンドBL。R18作品。 ~主な登場人物~ ・須中藍時…24歳。男性のΩ。フリーター。あることがきっかけで、純の「ママ」として扇家で働くことになる。失声症を患わっており、手話と筆談で会話する。なぜか純の前でのみ、声を出して話すことができる。秀一の妻であるヒナに顔立ちが似ているらしい。身長は168㎝。 ・扇秀一…31歳。男性のα。純の父親。大柄な男で強面だが、他人には優しく穏やかに接する。藍時の雇い主。仕事人間で一年前に妻に逃げられたと藍時に話す。身長は198㎝。 ・扇純…4歳。秀一の息子。出会った当初から藍時をママと呼んでいる。歳のわりにしっかり者だが、まだまだ甘えん坊なママっ子。 〜あらすじ〜 恋人からの暴力により声を失い、心と身体に深い傷を負ったΩの青年・須中藍時は己の人生を悲観していた。人知れずして引っ越した場所では、頼れる家族や友人はおらず、仕事も長く続かない。 ある日、藍時は自分を「ママ」と呼ぶ迷子の少年・扇純と、その父親・扇秀一に出会う。失われたと思っていた声は、なぜか純の前では出せるように。しかしαの秀一に得体の知れない恐怖を感じた藍時は、彼らからのお礼もそこそこに、その場から逃げ出してしまう。 そんな二人の出会いから一週間後。またも職を失った藍時は、新たな仕事を求めて歓楽街へ訪れる。そこで見知らぬ男達に絡まれてしまった藍時は、すんでのところを一人の男によって助けられる。それは秀一だった。 気を失った藍時は扇家にて介抱されることになる。純は変わらず藍時のことを「ママ」と呼び、終始べったりだ。聞けば純の母親は夫である秀一に愛想を尽かし、家を出て行ってしまったという。藍時はそんな妻の顔に、よく似ているらしいのだ。 そしてひょんなことから提案される「家事代行ならぬママ代行」業。期限は純の母親が戻ってくるまで。 金も職もない藍時は、秀一からの提案を受けることに。しかし契約が交わされた途端、秀一の様子が変わってしまい……? ※別サイトにて以前公開していました自作「FAKE FAMILY〜その家族は期間限定!?〜」(現在は非公開)を改題、リメイクしたものになります。 Pixiv、ムーンライトノベルズ様でも公開中です。

国で一番醜い子は竜神の雛でした。僕は幸せになれますか?

竜鳴躍
BL
~本当は美しい竜神の子と亡国の王子の物語~行商人のお兄さん×成人したての竜神。 ダスティは孤児である。鱗のようなものが全身にあり、醜いので引き取り手もなく、教会で下働きをしていた。唯一可愛がってくれた行商人のグランド様をひそかに慕っている。ある日、やっと引き取られた先は見世物小屋で―――――。その時、グランド様が助けに来てくれた。傷を負っても助けてくれた彼を守りたくて、僕は羽化する。

【本編完結】僕だけの溺愛彼氏

k
BL
はじめて恋をした相手は僕だけの溺愛彼氏でした。 スーパー溺愛彼氏(攻め)×ヘタレ美人(受け) ※受けは前世の記憶あり 前世は日本で、ここは日本とよーく似た世界です。 本編完結済み 番外編不定期で更新していきます!

貧乏Ωの憧れの人

ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。 エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの

【完結】後宮に舞うオメガは華より甘い蜜で誘う

亜沙美多郎
BL
 後宮で針房として働いている青蝶(チンディエ)は、発情期の度に背中全体に牡丹の華の絵が現れる。それは一見美しいが、実は精気を吸収する「百花瘴気」という難病であった。背中に華が咲き乱れる代わりに、顔の肌は枯れ、痣が広がったように見えている。  見た目の醜さから、後宮の隠れた殿舎に幽居させられている青蝶だが、実は別の顔がある。それは祭祀で舞を披露する踊り子だ。  踊っている青蝶に熱い視線を送るのは皇太子・飛龍(ヒェイロン)。一目見た時から青蝶が運命の番だと確信していた。  しかしどんなに探しても、青蝶に辿り着けない飛龍。やっとの思いで青蝶を探し当てたが、そこから次々と隠されていた事実が明らかになる。 ⭐︎オメガバースの独自設定があります。 ⭐︎登場する設定は全て史実とは異なります。 ⭐︎作者のご都合主義作品ですので、ご了承ください。 ‪ ☆ホットランキング入り!ありがとうございます☆

ロンドンの足長おじさん

花町 シュガー
BL
『これが僕らの〝出会い〟、僕らの運命。 ーーでも、こんな形があってもいいと思うんだ。』 シルクハットの似合う長身のおじさんが、僕の運命の番でした。 運命の番との出会いを断る大人の、長い長い言い訳の物語。 〈おじさん × 高校生〉オメガバース この作品は、Blove様主催【第一回短編小説コンテスト】にてグランプリをいただきました。 ------------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるハッシュタグです。 お手すきの際に覗いていただけますと幸いです。

アルファ嫌いの子連れオメガは、スパダリアルファに溺愛される

川井寧子
BL
オメガバース/オフィスラブBL/子育て/スパダリ/溺愛/ハッピーエンド ●忍耐強く愛を育もうとするスパダリアルファ×アルファが怖いオメガ●  亡夫との間に生まれた双子を育てる稲美南月は「オメガの特性を活かした営業で顧客を満足させろ」と上司から強制され、さらに「双子は手にあまる」と保育園から追い出される事態に直面。途方に暮れ、極度の疲労と心労で倒れたところを、アルファの天黒響牙に助けられる。  響牙によってブラック会社を退職&新居を得ただけでなく、育児の相談員がいる保育園まで準備されるという、至れり尽くせりの状況に戸惑いつつも、南月は幸せな生活をスタート!  響牙の優しさと誠実さは、中学生の時の集団レイプ事件がトラウマでアルファを受け入れられなかった南月の心を少しずつ解していく。  心身が安定して生活に余裕が生まれた南月は響牙に惹かれていくが、響牙の有能さが気に入らない兄の毒牙が南月を襲い、そのせいでオメガの血が淫らな本能を剥き出しに!  穏やかな関係が、濃密な本能にまみれたものへ堕ちていき――。

処理中です...