上 下
22 / 202

BAR ①

しおりを挟む
 2人が同棲し始めて3ヶ月が経ち、今は5月。
 季節は春になっていた。

 今日の夕食のメニューは晴人の好きな『おにぎり』
 中の具は『昆布梅干』『しゃけとごま』『高菜おにぎり』

 なぜ晩御飯が『おにぎり』になったかというと、今日晴人は仕事の後、学会とその後は懇親会だそうで帰りが遅い。
 学会の前に、軽く食べると言っていたが、多分無理だろう。
 そこで深夜帰ってきても、少しでも食べられる『おにぎり』を用意し、もし付き合いで飲んだお酒のせいでおにぎりとして食べられなくても、そのおにぎりにお茶をかければ『お茶漬け』になる具を選んだ。

 大抵の日は、瑞稀の出勤と晴人と帰宅時間が入れ違いで一緒に食べられない。
 それでも同じものを食べられるだけで、瑞稀は嬉しかった。

明日は何作ろうかな?

 毎日の献立を考えるのは大変だが、晴人の喜ぶ顔が見られると思うと、頑張って料理の勉強をして、もっともっと美味しいものを食べてもらいたいと思う。

少し熱っぽくて頭痛もするけど、薬も飲んだし大丈夫かな?

 オメガの薬と頭痛薬を飲み鍵をしっかりしめると、仕事のため瑞稀は部屋をでた。

 初めてヒートがきてから、もうすぐ3ヶ月。
 そろそろ2回目のヒートがきそうな時期だ。
 大体のヒート時期を見計らい、瑞稀と晴人は一緒に休暇願いを出して、2人で過ごせるように薬で調節していた。

「おはようございます」

 瑞稀はまだ誰もいないバーの裏口の鍵を開けると掃除をし、配達された酒とストックの酒のチェックをする。
 グラスを磨いていると、かすみが食材の入ったエコバッグを持って元気よく出勤してきた。
 そして、しばらくして眠そうなオーナーが店にやって来る。

「「おはようございます」」

「おはよう」

 瑞稀とかすみが挨拶すると、大きなあくびをしながらオーナーも挨拶をする。いつもの光景だ。

 出勤時は眠そうなのに、身支度を済ませるにつれて、落ち着いた仕事モードのオーナーになるので、瑞稀はいつもそのギャップに驚かされる。
 高校を卒業と同時に家を出て仕事を探している瑞稀に、手を差し伸べてくれたのがオーナー。
 強面だが根は優しくて親身。
 いつでも瑞稀を助けてくれる、歳の離れた兄のようだ。

 店がオープンの時間になると、待っていたかのように常連客がやってきて、オーナーとの話を楽しんでいる。
 かすみは、いつもみんなに元気をくれて、瑞稀はおっとり、みんなを癒す。
 店が雑誌に載るほどオシャレでも、高級感漂う感じでもないが、辛いことや嫌なことがあっても忘れさせてくれて、どんなに凹んでいても最後には『自分は一生懸命頑張ってるんだ!だから凄いんだ!』と自信を持たせてくれる。来た人にしか分からない憩いの場が瑞稀の職場なのだ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

処理中です...