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7月5日 ⑤

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「ママさん、急いで‼︎」

晶が呼んだタクシーが薫の家の前に着くと、晶は薫の母を引きずるようにタクシーに乗せ、自分もすぐ後に乗り込んだ。

「〇〇病院までお願いします‼︎出来るだけ早く‼︎早く、お願いします‼︎」
晶は運転手に懇願する様に伝える。

神様お願いします‼︎
どうか、どうか
薫を、
先輩を助けて‼︎



薫の母にかかってきた電話は、病院からだった。

『薫君が事故にあい、今手術を受けています』

と。

『詳しい話は後ほど…』
と言われ、晶は急いでタクシーを呼び、薫の母と向かっている。


やっぱり何かあったんだ‼︎
俺がついていけば…
薫を1人にしなければ、こんなことには‼︎

タクシーの進みがいつもより遅く感じられ、苛立ちを抑えるために握られた晶の拳は、チカラが入り過ぎ、小刻みに震えていた。

手術って?
そんなに悪いのか?
意識はあるのか?
事故ってなんだよ‼︎

晶の頭の中で、不安がぐるぐる回る。
タクシーから見える見慣れたはずの景色は、初めて見た景色のように感じ、時間がまるで進まない世界にいるようだ。


あ‼︎病院が見えた‼︎

街の中の大きな総合病院。
広い入り口の前にあるタクシー乗り場で、2人は降りた。

「ママさん、病院につきましたよ」
晶が声を掛けるが、反応がまるでない。

「ママさん‼︎しっかりして‼︎」
「‼︎」
晶が大声を出すと、薫の母はハッとした表情になり、病院から電話があった後はじめて、晶の方を見た。

「晶くん、薫…は…」
震える声で薫の母が晶に尋ねる。
「手術中。…大丈夫、薫は強い‼︎…。急ぎましょう…」
今度はしっかりした目で晶を見つめ、薫の母は頷くと、手術室へ急いだ。



手術室前の長椅子にはすでに神谷の母親がいて、両掌を組み息子の無事を願っていた。

なんて声をかけたら……

「おば……さん……」

晶が神谷の母親に声をかけると、母親はゆっくりと晶の方を見た。
その瞳は不安と恐れが入り混じり揺れている。

「おばさん…、おじさんには連絡した?」
晶は神谷の母親と同じ目線になるようにしゃがむと、出来るだけ優しく声を掛ける。
「したわ。…急いで来るって言ってたけど……会社からここまで遠くて、いつ着くかわからないの…」
神谷の母親の目から涙が溢れ、それを隠すように顔を両手で覆った。
「神谷先輩は大丈夫‼︎絶対大丈夫です‼︎」
晶は自分に言い聞かせるように言う。

先輩も薫も、絶対大丈夫。
この手術が終わったら
『みんな大袈裟なんだから…』 
って、笑いながら話すんだ。
そしたら俺が
『俺の誕生パーティーしてくれるんだろ?』
って言って、薫が
『サプライズ用意してるんだから、するに決まってるだろ?』
って言うんだ。

それから甘ったるいホールのケーキをみんなで囲んで食べて…
その後、ゲームするのもいいな。
それで薫がいつものように怒るんだ。
『俺ばっかり負けるのって、ずるい』
って………。

だから、薫‼︎神谷先輩‼︎
早くその部屋から出てきて‼︎

晶は不安で震える肩を、しっかりと自分の両手で掴むと、

震えるな‼︎
大丈夫‼︎
きっと大丈夫なんだ‼︎

と、何度も何度も言い聞かせながら、
赤いランプで『手術中』と映し出された文字を、睨み付けていた。
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