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姐さん ①

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 健の意識が少しずつ戻る中、
「わぁ~、すごい!」
 優斗の声がする。
「だろ?見た目も味も自信作だよ」
 大輔の声もする。
「今度作り方、教えてください」
 優斗が言うと、
「じゃあ、健と一緒においで」
 と大輔。
 健の時とは違い、優斗と話す時の大輔は大人のような話し方だ。

優斗と料理を教わりに行くのは楽しそうだが、講師が大輔なのは嫌だな…。

 そんなことを思っていると、開いたままの寝室のドアから、誰か入ってくる気配がした。
 薄ら目を開けると、そこには健の顔を心配そうに見つめる優斗の姿が。
「あ、ごめん、起こしちゃったね」
 優斗は申し訳なさそうだ。
「今、起きたところだから、優斗のせいじゃないよ。…おかえり」
 健が体を起こそうとしたので、優斗は健を手伝い、健の額に手を当てる。
 その優斗の手が冷たく気持ちよくて、健は目を閉じた。

やっぱり優斗の手が、一番気持ちいい。

「熱、少し下がった?」
「ああ、下がったよ」
 本当は帰宅してからも、起きてからも熱は測っていなかったので、実際は上がったのか?下がったのか?わからなかったが、確実に体調は良くなっていると健は感じていた。
「大輔さんがね、リゾット作ってくれてたよ。キッチンに行く?それとも寝室ここに運んでこようか?」
「キッチンに行くよ」
 立ち上がった時、眩暈がしたが優斗には気づかれていないようだった。


 キッチンのドアを開けると、チーズとベーコンの香がする。
 デーブルの上に並べられているリゾットと野菜いっぱいのミネストローネからは、湯気が出ていた。
「起きたか。体調は?」
 大輔がエプロンを脱ぐ。
「だいぶいい」
 微笑んでみたが、まだ本調子でない。
「これ食べたら、薬飲むんだぞ。あと作り置きも作ったから、冷蔵庫に入れてある。よかったら食べな。じゃあ、俺はこれで。優斗くん、またね」
 そう言い大輔が帰ろうとすると、
「え?一緒に食べないんですか?」
 慌てて優斗が大輔に聞いた。
「俺の役目は、優斗くんが帰ってくるまでだから、今日は帰るよ。また健が元気になったら、ピザ食べに来て」
「でも……」
 困ったように、優斗がちらりと健を見る。

そうだな。
有馬の頼みだからって言ってたけど、いろいろ都合つけて来てくれたんだし…。

「そう言わずに、大輔も一緒に食べないか?」
 健も誘う。
「あ~でも…」
「大輔のことだから、リゾットもミネストローネも多めに作ってくれてるんだろ?」
「まー、そうだけど…」
 大輔は歯切れの悪い返事をする。
「それじゃあ、3人で食べるの、決まりだね。俺、用意してくる」
 優斗が大輔の分の食器を用意していると、大輔が健の方に近寄ってきて、小声で話す。
「本当にいいのか?」
「『いいのか?』って?」
「いや、だって優斗くんと2人っきりの食事って、久々なんじゃないのか?」
「まーそうだけど」
「俺がいたら邪魔だろ?」

確かに…。

 大輔には悪いと思いながらも、優斗とゆっくりと食事できるのは久々だ。

でも…。

 3人分の食器を用意する優斗の横顔は、楽しそうだ。
「本当のことを言えば、大輔は邪魔だ」
 はっきりと健がいうので、傷ついたように大輔は胸を押さえるふりをした。
「でも、優斗の楽しそうな姿を見ると、3人での食事もいいかな?って思えてくる」
 健が視線を優斗に向けると、自然と大輔も優斗を見る。
「だから今日は、優斗のために、一緒に食べてやって」
「そういうことなら…、お邪魔します」
 大輔が微笑み、
「手伝うよ」
 と優斗の方に歩み寄るのを、健は見守った。
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