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満月の夜

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 電気を消し暗い部屋の中、智樹は雅樹に後ろから抱きしめながら、目を瞑る。両親も寝静まったのだろうか?家の中はしんと静まり返ると雅樹の心臓の音が、智樹の背中から伝わってきた。早くもなく、遅くもなく、いつも感じている心音。だが、いつも聞こえてくる穏やかな雅樹の寝息や、あたたかなぬくもりはなかった。時折、智樹の髪に優しくキスをする雅樹の唇から、悲しみが伝わってくるようだ。
 何度目かのキスの後、智樹を抱きしめていた雅樹は腕の力を緩め、ベッドから離れる。

雅樹…、どこに行くの?

 智樹は起き上がって、すぐにでも聞きたかったが躊躇した。雅樹があのキスマークの事に触れてこないことも、もし聞かれたとしても、なんと答えればいいかわからないことも…。今の智樹にはわからないことだらけだったから。

トイレ…かもしれない…。

 しばらくベッドで雅樹の帰りを待っていたが、一向に帰ってこない。

もしかしたら、自室のベッドに行ってしまったのかも!?
自分勝手だと思うけど、雅樹がそばにいないと不安になる。
『雅樹、いつもそばにいてよ…』

 ベッドから智樹は降りると、雅樹の部屋のドアを開けるが、誰もいない。

トイレかも知れない。

 トイレを確認に行く。が、雅樹はいない。

喉が渇いたのかも?

 リビングに行くが暗いまま。来客用の部屋を覗いても、雅樹の姿はない。

もしかして、出て行った!?

 玄関に雅樹の靴を確認に行くと、靴があったので、智樹はほっとした。

じゃあ、どこに……。
!!
もしかして!!

 智樹は階段を駆け上り、ある場所のドアを開けると、
「雅樹!」
ベランダの手すりに寄りかかり、夜空に浮かぶ月を見ていた雅樹がいた。

やっぱりここだった。

 雅樹の姿を見ると、安心感から智樹の目が潤んだ。
「智樹……」
 雅樹は智樹の姿に驚いたようだったが、『おいで』と、手招きをする。
「起こした?」
 雅樹にくっついた智樹は首を横に振る。
「トイレか?」
 冗談ぽく雅樹が笑うから、
「違うよ」
と言いながら、さっきまで泣きそうだった智樹が笑った。
「雅樹はどうしてここに?」
「今日は満月だって聞いてたから、見えるかな~って思って。満月ってなかなか見れないからな」
 智樹越しに見える月を雅樹が見つめると、智樹も振り返る。雲ひとつなく、満月がいつも以上に輝いて見えた。
「智樹越しに見える満月は、余計に綺麗に見える…」
 優しい瞳で見つめる雅樹は、ぽつりと呟き……、

!!!!

驚く智樹の目には、ハラハラと涙をながす雅樹の姿が映った。
「雅……樹…?……!!」
 急に智樹は雅樹に抱きしめられる。
「ごめん…。もうしないから…しないから、、今だけ…抱きしめこうさせて…」
 智樹を抱きしめる雅樹の腕は震えていて、智樹が『うん』と頷くと、腕の力がほんの少し強くなった。
「俺の顔は…見ないで…」
 雅樹があまりにも悲しげにいうから、智樹はまた『うん』と頷く。
 すると、
「っつ……」
嗚咽する雅樹の声が。

雅樹!?

 雅樹の顔を見ようと、顔をあげようとした智樹の頭を雅樹が胸におしあてて、顔を見られるのを阻止する。

どうして…?
どうして泣いてる?
どうしてそれを隠す?
どうして……?

「雅樹?」
 嗚咽する雅樹には、智樹の声は聞こえてないようだ。智樹は雅樹の背中に腕を回し、背中をぽんぽんと優しく叩いた。
「今日の月、本当に綺麗だな」
 智樹が言うと、
「そうだな……」
雅樹が呟いた。そして消え入るような声で、
「月が…綺麗ですね…」
雅樹は智樹に聞こえないように言った。
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