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夜景

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「次はどこ行きたい?」
また当てもなく早見が車を走らせている。
「次は……」
智樹は少し考えて、
「今度こそ、夜景、見に行きたいです!」
元気な声で早見に告げた。
「さっきはちょっと嫌そうだったけど、本当に夜景でいいの?」
「はい。今は見たい気分です」

夜景は幸樹兄さんと雅樹との記憶しかないけど、そこに早見さんとの記憶も作っておきたい。

智樹の元気になった声に、早見は安心したような表情を浮かべる。
「じゃあいきますか」
早見は少し車のスピードを少し上げ、山道を登り、夜景が見える展望台をめざした。


暫く車を走らせ山道を登っていくと、見晴らしのいい広場のようなところについた。

他に停まっている車はなく、フロントガラスから見える景色は、ビルから漏れる光が光っていたが、時間が時間なためか、その数は少ない。


「ちょっと光が少なくて…申し訳ない。本当はもっと綺麗なんだけどな~」
早見が頭を掻く。
「いえ、綺麗です…」
智樹は空を見上げていた。
雲ひとつない夜空には丸い月が大きく光り、一等星なのか二等星なのか、いつもは見えない、いや、見ようとしていなかった星も輝いている。

「星って結構たくさん見えるんですね。俺、最近空、見上げた記憶ないです」
夜空だけでなく、昼間の空も、晴れたら日も、雨の日も、風の日も、陽炎ができそうなぐらい暑い日も、珍しく雪が降った日も、智樹は空なんて見ていなかった事を思い出した。

下ばっかり見てたな。
北極星ってどこにあるんだろう?
一等星だったかな?
いや、確か北極星は見つけやすいけど、二等星だったような気がする。
その前に北ってどっちだ?

智樹が北極星を探していると、
「わ‼︎」
夢中で空を見上げていた為、自分の体が反り返りすぎているのに気が付かず、もう少しで後ろに倒れそうになったところを、早見に受け止めてもらっていた。
「す、すみません…」
智樹は早見に受け止められながら謝まる。
「そんなに夢中になって、何探してたの?」
「北極星です。あの、北ってどっちですか?」
「向こうだけど…、智樹君、一度ちゃんと立ちあがろうか…」
「‼︎‼︎すみません‼︎」
慌てて智樹は再び早見に謝り、きちんと自分の力で立ち上がった。

それもそのはず。
智樹は早見に受け止められたままの体制で、早見に話しかけていたからだ。

「智樹君って、小さい時から集中すると周り、見えなくなってるよね」
クスリと早見が笑う。
「そうですか?全然気が付かなかった」
恥ずかしさで智樹は照れた。
この照れは、計算されたものではない。
「北はあっちだから、北極星はあれかな?」
早見が指差す方に一際目立つ星があった。
「綺麗…ですね…」
その輝きに智樹はうっとりする。

「早見さん、よくここに来るんですか?」
「たまにね。落ち込んだ時とか、凹んだ時とかね」
早見はいつも見せないような、少し困ったような、悲しそうな、そんな複雑な顔で笑った。
「早見さんもそんな時あるんですね」
凄く意外だった。
なんでも完璧にこなす早見にも、そんな事があるなんて智樹は思ってもみなかったから。

「あるよ~。仕事でミスった時とか、好きな子の事考えたりしたらね」
早見はチラッと智樹の方を見る。

あ、その好きな子って、多分俺のことだ。
でもこれはどうしようもない事だ。
俺が好きなのは、どんに酷い対応をされても、やっぱり雅樹だし…。

智樹は困った顔をする。
「冗談だよ。久々にちょっと智樹君を困らせたかっただけ」
冗談ぽく早見は笑ったが、その笑顔が、どこまでが冗談で、どこからが本当の事なのかは、いつも人の事を観察している智樹にもわからなかった。
そして智樹はいつも冷静沈着に振る舞う早見の弱いところに、少し触れたような気がした。
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