23 / 88
夜景
しおりを挟む
「次はどこ行きたい?」
また当てもなく早見が車を走らせている。
「次は……」
智樹は少し考えて、
「今度こそ、夜景、見に行きたいです!」
元気な声で早見に告げた。
「さっきはちょっと嫌そうだったけど、本当に夜景でいいの?」
「はい。今は見たい気分です」
夜景は幸樹兄さんと雅樹との記憶しかないけど、そこに早見さんとの記憶も作っておきたい。
智樹の元気になった声に、早見は安心したような表情を浮かべる。
「じゃあいきますか」
早見は少し車のスピードを少し上げ、山道を登り、夜景が見える展望台をめざした。
暫く車を走らせ山道を登っていくと、見晴らしのいい広場のようなところについた。
他に停まっている車はなく、フロントガラスから見える景色は、ビルから漏れる光が光っていたが、時間が時間なためか、その数は少ない。
「ちょっと光が少なくて…申し訳ない。本当はもっと綺麗なんだけどな~」
早見が頭を掻く。
「いえ、綺麗です…」
智樹は空を見上げていた。
雲ひとつない夜空には丸い月が大きく光り、一等星なのか二等星なのか、いつもは見えない、いや、見ようとしていなかった星も輝いている。
「星って結構たくさん見えるんですね。俺、最近空、見上げた記憶ないです」
夜空だけでなく、昼間の空も、晴れたら日も、雨の日も、風の日も、陽炎ができそうなぐらい暑い日も、珍しく雪が降った日も、智樹は空なんて見ていなかった事を思い出した。
下ばっかり見てたな。
北極星ってどこにあるんだろう?
一等星だったかな?
いや、確か北極星は見つけやすいけど、二等星だったような気がする。
その前に北ってどっちだ?
智樹が北極星を探していると、
「わ‼︎」
夢中で空を見上げていた為、自分の体が反り返りすぎているのに気が付かず、もう少しで後ろに倒れそうになったところを、早見に受け止めてもらっていた。
「す、すみません…」
智樹は早見に受け止められながら謝まる。
「そんなに夢中になって、何探してたの?」
「北極星です。あの、北ってどっちですか?」
「向こうだけど…、智樹君、一度ちゃんと立ちあがろうか…」
「‼︎‼︎すみません‼︎」
慌てて智樹は再び早見に謝り、きちんと自分の力で立ち上がった。
それもそのはず。
智樹は早見に受け止められたままの体制で、早見に話しかけていたからだ。
「智樹君って、小さい時から集中すると周り、見えなくなってるよね」
クスリと早見が笑う。
「そうですか?全然気が付かなかった」
恥ずかしさで智樹は照れた。
この照れは、計算されたものではない。
「北はあっちだから、北極星はあれかな?」
早見が指差す方に一際目立つ星があった。
「綺麗…ですね…」
その輝きに智樹はうっとりする。
「早見さん、よくここに来るんですか?」
「たまにね。落ち込んだ時とか、凹んだ時とかね」
早見はいつも見せないような、少し困ったような、悲しそうな、そんな複雑な顔で笑った。
「早見さんもそんな時あるんですね」
凄く意外だった。
なんでも完璧にこなす早見にも、そんな事があるなんて智樹は思ってもみなかったから。
「あるよ~。仕事でミスった時とか、好きな子の事考えたりしたらね」
早見はチラッと智樹の方を見る。
あ、その好きな子って、多分俺のことだ。
でもこれはどうしようもない事だ。
俺が好きなのは、どんに酷い対応をされても、やっぱり雅樹だし…。
智樹は困った顔をする。
「冗談だよ。久々にちょっと智樹君を困らせたかっただけ」
冗談ぽく早見は笑ったが、その笑顔が、どこまでが冗談で、どこからが本当の事なのかは、いつも人の事を観察している智樹にもわからなかった。
そして智樹はいつも冷静沈着に振る舞う早見の弱いところに、少し触れたような気がした。
また当てもなく早見が車を走らせている。
「次は……」
智樹は少し考えて、
「今度こそ、夜景、見に行きたいです!」
元気な声で早見に告げた。
「さっきはちょっと嫌そうだったけど、本当に夜景でいいの?」
「はい。今は見たい気分です」
夜景は幸樹兄さんと雅樹との記憶しかないけど、そこに早見さんとの記憶も作っておきたい。
智樹の元気になった声に、早見は安心したような表情を浮かべる。
「じゃあいきますか」
早見は少し車のスピードを少し上げ、山道を登り、夜景が見える展望台をめざした。
暫く車を走らせ山道を登っていくと、見晴らしのいい広場のようなところについた。
他に停まっている車はなく、フロントガラスから見える景色は、ビルから漏れる光が光っていたが、時間が時間なためか、その数は少ない。
「ちょっと光が少なくて…申し訳ない。本当はもっと綺麗なんだけどな~」
早見が頭を掻く。
「いえ、綺麗です…」
智樹は空を見上げていた。
雲ひとつない夜空には丸い月が大きく光り、一等星なのか二等星なのか、いつもは見えない、いや、見ようとしていなかった星も輝いている。
「星って結構たくさん見えるんですね。俺、最近空、見上げた記憶ないです」
夜空だけでなく、昼間の空も、晴れたら日も、雨の日も、風の日も、陽炎ができそうなぐらい暑い日も、珍しく雪が降った日も、智樹は空なんて見ていなかった事を思い出した。
下ばっかり見てたな。
北極星ってどこにあるんだろう?
一等星だったかな?
いや、確か北極星は見つけやすいけど、二等星だったような気がする。
その前に北ってどっちだ?
智樹が北極星を探していると、
「わ‼︎」
夢中で空を見上げていた為、自分の体が反り返りすぎているのに気が付かず、もう少しで後ろに倒れそうになったところを、早見に受け止めてもらっていた。
「す、すみません…」
智樹は早見に受け止められながら謝まる。
「そんなに夢中になって、何探してたの?」
「北極星です。あの、北ってどっちですか?」
「向こうだけど…、智樹君、一度ちゃんと立ちあがろうか…」
「‼︎‼︎すみません‼︎」
慌てて智樹は再び早見に謝り、きちんと自分の力で立ち上がった。
それもそのはず。
智樹は早見に受け止められたままの体制で、早見に話しかけていたからだ。
「智樹君って、小さい時から集中すると周り、見えなくなってるよね」
クスリと早見が笑う。
「そうですか?全然気が付かなかった」
恥ずかしさで智樹は照れた。
この照れは、計算されたものではない。
「北はあっちだから、北極星はあれかな?」
早見が指差す方に一際目立つ星があった。
「綺麗…ですね…」
その輝きに智樹はうっとりする。
「早見さん、よくここに来るんですか?」
「たまにね。落ち込んだ時とか、凹んだ時とかね」
早見はいつも見せないような、少し困ったような、悲しそうな、そんな複雑な顔で笑った。
「早見さんもそんな時あるんですね」
凄く意外だった。
なんでも完璧にこなす早見にも、そんな事があるなんて智樹は思ってもみなかったから。
「あるよ~。仕事でミスった時とか、好きな子の事考えたりしたらね」
早見はチラッと智樹の方を見る。
あ、その好きな子って、多分俺のことだ。
でもこれはどうしようもない事だ。
俺が好きなのは、どんに酷い対応をされても、やっぱり雅樹だし…。
智樹は困った顔をする。
「冗談だよ。久々にちょっと智樹君を困らせたかっただけ」
冗談ぽく早見は笑ったが、その笑顔が、どこまでが冗談で、どこからが本当の事なのかは、いつも人の事を観察している智樹にもわからなかった。
そして智樹はいつも冷静沈着に振る舞う早見の弱いところに、少し触れたような気がした。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる