上 下
19 / 88

声が聞きたかった

しおりを挟む
夜中、家族中が寝静まった午前3時ごろ。
智樹は電気の消えた部屋の中、スマホを片手に今日、雅樹に付けられたキスマークに触れていた。

キスマーク自体は雅樹に何度もつけられていたし、智樹自身、マークを見るたび雅樹との甘く、激しいセッ○スを思い出すので、マークを見るのが好きだった。
だが今回は違う。
優しくもない突然つけられた、ただの赤いマーク。

見たくない、こんなマーク。
どうせヒートじゃない俺なんかいらないんだろ?
たまたま少しだけフェロモンの香りがしただけだろ?
雅樹は鼻がいいから、わかっただけだろ?
アルファ一家なのにオメガな俺は…
特殊なフェロモンを放つ俺なんて、この家にもいらないんだろ?
どうせすぐにセッ○スでなんでも解決しようとする俺なんて、いらないんだろ?
こんな家にいたくない…

智樹の手はスマホに伸び、ある番号で止まる。
何度目かの呼び出し音の後、
『もしもし智樹君、何かあった?すぐに行くから場所教えて』
電話の向こうで急ぎ、車の鍵を持つ気配がする。
「大丈夫。ただ早見さんの声が聞きたくて…」
いつもの智樹なら絶対にしないこと。
だが1人、無音の部屋にいるのは辛かった。
『どうした?今どこ?』
安心したような早見の声は、いつもより優しく感じる。
「自分の部屋…」
早見の声を聞くと、無性に会いたくなった。
「早見さん…、俺…」
智樹が言いかけた時、
『迎えに行くよ。ドライブしよう』
早見が言うと、智樹の目に涙が溜まり「うん」と小さく返事だけした。
『家の近くに着いたら連絡する。それから門まで歩いて迎えに行くよ。でも、もし行きたくなくなったり、行けなくなっても気にしないで。電話で話すぐらい、どこでもできるから…』
早見の声はとても優しかった。 
「早見さんも気をつけて」
と智樹が言うと『ありがとう』と早見がいい、通話を切った。
 
しばらくするとメールで
『家の近くに車を停めた。今から門まで迎えに行く。門についたら、またメールする』
電話の時の優しい感じのメール文ではく、まるで事業報告のメールのようだ。

これ本当に早見さんからの、プライベートメール?

そのメールの書き方に、智樹は笑ってしまう。
2分ほど経った時、またメールが入る。
『門の前についた。影に隠れてるグレーのジャージ姿が俺。不審者じゃないから安心して』

なんだよ、これ。
変なメール。

智樹は早見からのメールを、可愛いと思ってしまった。


智樹は音を立てないよう細心の注意をはらい、玄関を出ると、メールに書いてあった通り、グレーのジャージ上下の男が立っている。
「早見…さん?」
智樹が恐る恐る声を掛けると、
「智樹君、早かったね。車まで少しあるけど歩ける?」
智樹の顔を覗き込むと、早見の前髪がサラリとなびく。
「大丈夫です。見つからないよう家を出て来たので…。それより早く行きたいです」
智樹が早見の手を取り、前に進もうとすると、
「智樹君、車あっち」
早見は智樹が進もうとしていた真反対を指し、さっきの智樹の行動が可愛いかったというように笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

seaco
BL
バー「BIRTH」で働くイケメン久我 侑利(くが ゆうり)は、雨続きで利用したコインランドリーで辛い過去を持つ美人系男子の羽柴 慶(はしば けい)と出会う。 少しずつお互いに気になり始めて、侑利の家に居候する事になる慶。 辛い過去や、新しい出会い、イケメン×無自覚美形の日常の色々な出来事。 登場人物多数。 基本的に「侑利目線」ですが、話が進むにつれて他の登場人物目線も出て来ます。その場合はその都度、誰目線かも書いて行きます。何も無いのは全て「侑利目線」です。 また、予告なく絡みシーンが出て来る事がありますが、グロいものではありません(^^; 初めての投稿作品なので…表現などおかしい所もあるかと思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです。

処理中です...