上 下
2 / 3

中編

しおりを挟む
「お久しぶりです、陛下」

「ああ、久しぶりだな。レオン……」

挨拶を交わした後、二人はお互いに見つめ合ったまま動かなかった。

「相変わらず美しい方だ」

陛下はレオンの婚約者となる少女を見てそう言ったのだった。

「恐れ入ります……」

少女は恭しく頭を下げて、そう言った。

「ああ、レオン、これほど美しい女子を妃に迎え入れることができて、幸せなのはよく分かる。だがな、お前にはもう一つ大切な仕事が残っていることを忘れてはいないかな???」

「それは、なんでしょうか???」

「おいおい、まさか忘れたわけではあるまいね???ミクリッツ王国との講和条約締結について、お前に任せた大切な仕事だよ」

レオンはここまで言われて初めて思い出した。隣国のミクリッツ王国とは長年戦争を繰り返してきたのだが、その度にお互い疲弊してきた。そのため、これ以上戦争を続けることが無意味だと悟った両国元首が、講和条約締結を一刻も早く望むこととなった。そして、条約締結とは他に、ミクリッツ王国の令嬢とアルタイル王国の貴族を婚約させて結束するという、新たな計画が浮上したわけで、その仲人を務めるというのが、王子レオンに与えられたミッションだったわけなのだ。

「ああ、そんなこともありましたっけ???」

「はあああっ……」

陛下は深いため息をついた。

「もう少ししたら、私はお前に全てを譲るつもりだったのだが、それはまだ早いようだな」

「恐縮です!!!」

「お前が恐縮してどうするんだ……」

陛下は呆れ果てて、これ以上王子レオンを叱る気力も失せていた。

「それで、お前の知り合いでもなんでもいいが、どうなんだね、ミクリッツ王国の御令嬢の婚約候補の目星はあるのかね???」

「そんなことを急に言われましても……」

王子レオンは一瞬迷った。だがすぐに、この問題を解決する方策を悟った。

「いや、一人おりますよ!!!私の同級生で、まだ婚約相手のいない伯爵が一人!!!早速呼んできます!!!」

そう言って、王子レオンはある男のところへ向かうのだった。

「シリウス!!!シリウスはいるか???」

そう、王子レオンが白羽の矢を立てたのは、伯爵シリウスだった。

「王子、部屋に入る時はノックくらいしませんと???そのくらいの常識もないのですか???」

シリウスは怪訝そうな顔をした。

「おいおい、シリウス。そんな説教を聞いている暇はないんだ。さあ、早く来るんだ!!!」

「説教じゃありません。私はあなた様の常識を疑っているだけなのです。って、あの……私をどこに連れていくのですか???」

「黙ってついてこればいいんだ!!!!」

王子レオンは強引にシリウスの手を引いて、陛下のところへ連れていった。シリウスはいきなり、陛下の前まで来させられて、仰天してしまった。

「陛下!!!ああ、はしたない姿をお見せいたしまして、申し訳ございません!!!」

陛下はにこやかに微笑んだ。

「ああ、そんなに恐縮されるとこちらが困るからな。君は、レオンの友人なのか???」

「はああっ、レオン様とは学院時代の同級生でございまして……」

「その通りでございます、父上」

王子レオンが先に答えてしまった。

「そうかそうか、レオンの友達なのか。ああ、いつもレオンが世話になっているなあ」

陛下はそう言って、シリウスの手を取った。

「いえいえ……恐縮でございます!!!!」

「ああ、だからそんなに恐縮しなくていいんだよ。なあ、そうだろう???」

「はいっ、申し訳ございません!!!!」

「ああ、よく教育されたご子息だな……どこかの誰かとは違って……」

この嫌味は陛下の完全な独り言と解釈され、誰もがスルーした。もちろん、レオンの耳にも届いていたのだが、知らんぷりをした。シリウスはこの場に自分が呼ばれた理由が分からなかった。

「つまりはだな、君の婚約候補者を紹介しようと思っているんだよ……」

レオンがシリウスに今進んでいる話を説明すると、当然のことながら、シリウスは困惑することとなった。

確かに婚約者はいない。だがしかし、彼には幼馴染のアゼルスがいた。いくら、皇帝陛下が隣国の婚約者との縁談を持ちかけてきたとしても、それに答えることは到底できないと心の底で思っていたのだ。もちろん、そんなことを口に出すことはできなかったのだが……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

お見合いすることになりました

詩織
恋愛
34歳で独身!親戚、周りが心配しはじめて、お見合いの話がくる。 既に結婚を諦めてた理沙。 どうせ、いい人でないんでしょ?

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

処理中です...