上 下
7 / 10

7

しおりを挟む
 修道院に送られて、私に与えられた仕事は親のない子供たちのお世話だった。子供を身籠ることが出来なかった私への配慮だった。子供の世話をすることに一度は憧れたが、それが叶わなかった。ここにはたくさんの捨て子がいた。その多くは娼婦が避妊に失敗してしまい、産むだけ産んで見捨てられるパターンだった。子供たちの面倒を見ているうちに私の心は穏やかになった。貴族世界がどれほど捻くれているか…反省することが多かった。


 修道院での生活が始まって概ね1か月経過した頃合いに…例の女が現れた。

「アンナ様!」

 私のことを知っている者と言えば、1人しかいない。それに、別れ際に予告していた。本当に真意が分からなくて、そのまま分からないままだった。

「カーチャ…なの?」

「はいっ、アンナ様に色々とお話したいことがあって…やって来ました!」


 俗世間との交流は原則禁止となっているのだが、公爵家の正妻だからなのか、特別に面会が許可された。

「それで…お話というのは?」

「はいっ…実はここだけの話なのですが、私が身籠った子供の件なのですけど…」

「ああっ…旦那様の子供のこと?」

「ええ、そうなんですけど…これって本当にチャールズ様との子供なのか、疑問なんですよね…」


 一瞬、カーチャの言っていることが分からなかった。でも、すぐに理解した。カーチャもかつては娼婦であり、たくさんの男と性的に交わっていたのだ。基本的に避妊するはずだが、ここの修道院に居る子供たちが教えてくれるように必ずしもそうはいかないこともある。

「だって…王宮のお医者様に確認したら…あと1か月もすれば産まれるそうですよ?もしも、チャールズ様との間に出来た子供だとしたら、そんなに早くは産まれてこないでしょう?」

 それもそうだと思った。となると…これは一大事なのか?というか、結局のところ、旦那様の能力が問題だったのか?私が悪いんじゃなくて…旦那様?

「仮にそうだとしても…産むんでしょう?」

「ええ、まあ、そういうことになりますけど…。どこの男の子種か分からないんじゃ、正直育てる気が出てこないんですよね……」

 まさか…カーチャは最初から全て知っていて……全部仕組んだのか?あるいは、この話を旦那様やそのお母様にぶちまけて、彼らが公爵家の子供と認知しないつもりなのか?

「というわけで…子育てに慣れてきたアンナ様!こっそりと公爵家に戻りませんか?」

「……戻るメリットが何かあるのかしら?正直なところ、ここでの生活に満足しているのよね…」

 私がこう答えると、カーチャはクスクスと笑った。

「あらっ…そんなことを言っていいんですか?アンナ様は良くても…確か、あなたのお家はだいぶ傾いていますよね?誰のせいなのかは分かりませんが……」

 そう言われてしまうと心苦しかった。まあ、十中八九私のせいなのだが…。

「ねえ、名誉挽回のチャンスを与えましょうか?協力してくださったら、あなたのお家を建て直すことをお約束しますよ。でも…私を裏切ったら、もっと酷いことになるかもしれませんよ?」


 カーチャに従うしかなかった。私は…秘密裏に公爵家に戻ることとなった。

 道中、私はカーチャに質問をした。

「最初から全部作戦だったの?」

 カーチャは笑って、「さあ、どうでしょうね…」と答えた。


「アンナ様には分からない世界でしょうけれど…娼婦ってのはそういうものですよ…」 

 返す言葉がなかなか見当たらなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】

霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。 辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。 王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。 8月4日 完結しました。

彼は別の女性を選んだようです。

杉本凪咲
恋愛
愛する人から告げられた婚約破棄。 ショックを受けた私は婚約者に縋りつくが、冷たく払われてしまう。 彼は別の女性を選んだようです。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

処理中です...