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修道院に送られて、私に与えられた仕事は親のない子供たちのお世話だった。子供を身籠ることが出来なかった私への配慮だった。子供の世話をすることに一度は憧れたが、それが叶わなかった。ここにはたくさんの捨て子がいた。その多くは娼婦が避妊に失敗してしまい、産むだけ産んで見捨てられるパターンだった。子供たちの面倒を見ているうちに私の心は穏やかになった。貴族世界がどれほど捻くれているか…反省することが多かった。
修道院での生活が始まって概ね1か月経過した頃合いに…例の女が現れた。
「アンナ様!」
私のことを知っている者と言えば、1人しかいない。それに、別れ際に予告していた。本当に真意が分からなくて、そのまま分からないままだった。
「カーチャ…なの?」
「はいっ、アンナ様に色々とお話したいことがあって…やって来ました!」
俗世間との交流は原則禁止となっているのだが、公爵家の正妻だからなのか、特別に面会が許可された。
「それで…お話というのは?」
「はいっ…実はここだけの話なのですが、私が身籠った子供の件なのですけど…」
「ああっ…旦那様の子供のこと?」
「ええ、そうなんですけど…これって本当にチャールズ様との子供なのか、疑問なんですよね…」
一瞬、カーチャの言っていることが分からなかった。でも、すぐに理解した。カーチャもかつては娼婦であり、たくさんの男と性的に交わっていたのだ。基本的に避妊するはずだが、ここの修道院に居る子供たちが教えてくれるように必ずしもそうはいかないこともある。
「だって…王宮のお医者様に確認したら…あと1か月もすれば産まれるそうですよ?もしも、チャールズ様との間に出来た子供だとしたら、そんなに早くは産まれてこないでしょう?」
それもそうだと思った。となると…これは一大事なのか?というか、結局のところ、旦那様の能力が問題だったのか?私が悪いんじゃなくて…旦那様?
「仮にそうだとしても…産むんでしょう?」
「ええ、まあ、そういうことになりますけど…。どこの男の子種か分からないんじゃ、正直育てる気が出てこないんですよね……」
まさか…カーチャは最初から全て知っていて……全部仕組んだのか?あるいは、この話を旦那様やそのお母様にぶちまけて、彼らが公爵家の子供と認知しないつもりなのか?
「というわけで…子育てに慣れてきたアンナ様!こっそりと公爵家に戻りませんか?」
「……戻るメリットが何かあるのかしら?正直なところ、ここでの生活に満足しているのよね…」
私がこう答えると、カーチャはクスクスと笑った。
「あらっ…そんなことを言っていいんですか?アンナ様は良くても…確か、あなたのお家はだいぶ傾いていますよね?誰のせいなのかは分かりませんが……」
そう言われてしまうと心苦しかった。まあ、十中八九私のせいなのだが…。
「ねえ、名誉挽回のチャンスを与えましょうか?協力してくださったら、あなたのお家を建て直すことをお約束しますよ。でも…私を裏切ったら、もっと酷いことになるかもしれませんよ?」
カーチャに従うしかなかった。私は…秘密裏に公爵家に戻ることとなった。
道中、私はカーチャに質問をした。
「最初から全部作戦だったの?」
カーチャは笑って、「さあ、どうでしょうね…」と答えた。
「アンナ様には分からない世界でしょうけれど…娼婦ってのはそういうものですよ…」
返す言葉がなかなか見当たらなかった。
修道院での生活が始まって概ね1か月経過した頃合いに…例の女が現れた。
「アンナ様!」
私のことを知っている者と言えば、1人しかいない。それに、別れ際に予告していた。本当に真意が分からなくて、そのまま分からないままだった。
「カーチャ…なの?」
「はいっ、アンナ様に色々とお話したいことがあって…やって来ました!」
俗世間との交流は原則禁止となっているのだが、公爵家の正妻だからなのか、特別に面会が許可された。
「それで…お話というのは?」
「はいっ…実はここだけの話なのですが、私が身籠った子供の件なのですけど…」
「ああっ…旦那様の子供のこと?」
「ええ、そうなんですけど…これって本当にチャールズ様との子供なのか、疑問なんですよね…」
一瞬、カーチャの言っていることが分からなかった。でも、すぐに理解した。カーチャもかつては娼婦であり、たくさんの男と性的に交わっていたのだ。基本的に避妊するはずだが、ここの修道院に居る子供たちが教えてくれるように必ずしもそうはいかないこともある。
「だって…王宮のお医者様に確認したら…あと1か月もすれば産まれるそうですよ?もしも、チャールズ様との間に出来た子供だとしたら、そんなに早くは産まれてこないでしょう?」
それもそうだと思った。となると…これは一大事なのか?というか、結局のところ、旦那様の能力が問題だったのか?私が悪いんじゃなくて…旦那様?
「仮にそうだとしても…産むんでしょう?」
「ええ、まあ、そういうことになりますけど…。どこの男の子種か分からないんじゃ、正直育てる気が出てこないんですよね……」
まさか…カーチャは最初から全て知っていて……全部仕組んだのか?あるいは、この話を旦那様やそのお母様にぶちまけて、彼らが公爵家の子供と認知しないつもりなのか?
「というわけで…子育てに慣れてきたアンナ様!こっそりと公爵家に戻りませんか?」
「……戻るメリットが何かあるのかしら?正直なところ、ここでの生活に満足しているのよね…」
私がこう答えると、カーチャはクスクスと笑った。
「あらっ…そんなことを言っていいんですか?アンナ様は良くても…確か、あなたのお家はだいぶ傾いていますよね?誰のせいなのかは分かりませんが……」
そう言われてしまうと心苦しかった。まあ、十中八九私のせいなのだが…。
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道中、私はカーチャに質問をした。
「最初から全部作戦だったの?」
カーチャは笑って、「さあ、どうでしょうね…」と答えた。
「アンナ様には分からない世界でしょうけれど…娼婦ってのはそういうものですよ…」
返す言葉がなかなか見当たらなかった。
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