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「入れ……」

 旦那様の態度は素気なかった。

「失礼いたします…」

 私は一礼して入室した。

「本日の一件は…申し訳ございませんでした…」

「そのことはもういい…ああ、私も少し言い過ぎたと思っている…」

「はあっ、それで、ご用件は?」

 単刀直入に質問してみた。

「そんなに私と話をするのが…嫌なのか?」

 旦那様はそう言った。

「いいえ、別にそういうわけではありませんが…」

「そうか、それならば、ゆっくり話をしようじゃないか。まあ、立っていないで座りなさい…」

 幾らか柔和な姿勢を見せた。旦那様の真意も…よく分からなかった。

「はいっ…それでは失礼致します…」

 私は旦那様に言われた通り、腰かけた。

「先ほど、カーチャと話をした…」

 旦那様はこう切り出した。カーチャを正妻にするという話だと確信した。

「私としては…カーチャを第一の側室とし、君をこのまま正妻と位置づけようと思っているんだ」

「それは…どうしてですか?」

 私は思わず質問してしまった。こんな話になるとは思っていなかったから。

「なんだ…不満なのか?君はこのまま正妻でいられるのだぞ?」

「旦那様…どれほど私のプライドを傷つければ気が済むのですか?」

 せっかく、カーチャが慰めてくれて落ち着いた悲しみと…怒り。その感情が再びこみ上げてきたのだ。

「プライドだって?君の言葉を借りるとすれば、そのプライドを守ってあげようって話なんだぞ?本来だったら、カーチャを正妻としてもいいんだ。だが、それは現実的に難しい。なぜならば、彼女は身元不詳の娼婦であるから。私の正妻が元娼婦って言うのは大問題じゃないか。それに引き換え…君が正妻でいてくれれば、何も問題はないんだ。仮にも貴族の血筋だからな…」

 本当にバカみたい…私はそう思った。私が傷つくのは仕方がない。というか、これ以上もう傷つくことはない。問題はカーチャの扱いだ。人のことを心配するなんて、私も随分お人好しになったものだ。でもね、そう言うことなんだよ。私をどう扱おうと構わない。もう未来がないから。でもね、こんな愚かな私に寄り添うほど優しくてお人好しなカーチャを雑に扱うのは…許せなかった。

「ねえ、旦那様。この際ですから、はっきり言わせてください。これ以上、旦那様の隣に居続けても、お互いが不幸になるだけです。ですから…もう別れましょう」

 私は素直に言った。

「なんだって?」

 旦那様は動揺した。私の決意は揺らがなかった。
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