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 第一の側室となった元娼婦…名前はカーチャと言った。旦那様を始め、公爵家の人々、特にお母様はカーチャのことを称賛した。

「本当、あなたは良く出来たレディーね。それに引き換え正妻はと言えば…」

 子供を身籠ることが出来なかった私は…食事準備の手伝いや旦那様の衣装の裁縫など家事のサポートをすることにした。こんなこと、本来はメイドたちに任せればいいんだけど、そうなるといよいよ私の存在意義が危ぶまれると思ったから。幸い、家事の習いはあったので、そつがなくこなすことが出来ると思った。でも…旦那様やお母様は私のことを褒めることはなかった。そればかりか…カーチャの前で私のことを罵倒することもあった。

「アンナさん。なんですか、この黒焦げた物体は?とても人間の食べ物とは思えないわね?」

「はあっ…それは一種のチョコレートでございまして、元々そのような色でございまして…」

「言い訳は結構!食べられないと言ったら食べられないの!」

 そう言って、お母様はチョコレートを地面に投げつけた。こういう時、本来であればフォローしてくれるはずの旦那様も、お母様の味方をして私を攻撃した。

「おい、アンナ!母さんの食事だからと言って、蔑ろになっているんじゃないか?」

「いいえ、決してそのようなことは…」

「言い訳は結構だ!」

 旦那様も一緒になって、私のことを攻撃する。私の立場はどんどん無くなっていった。そんな私を少しでも哀れんでくれるのが、側室のカーチャであった。

「まあまあ、お二方とも。慣れないながらもせっかく作ってくださったのですから…アンナ様のお食事を少しは頂きませんか?」

 カーチャがこう言うと、2人は感激した。

「ああ、カーチャ。お前はなんていい子なんだ」

「ここまで人を思いやることの出来るレディーはいないわね。チャールズ、あなたは本当に素晴らしい伴侶を手に入れることが出来たわね!」

 カーチャが私のことを哀れむほど、彼女自身の株はうなぎ登りに上がっていく。悲しいけど、これが現実だった。旦那様とお母様が部屋から去ると、カーチャが私のところにやって来て、「お辛いですよね?」なんて声をかけてくる。同情なのか、それとも中傷なのか…そんなことを考える余裕もなく私は泣き出した。

「いいんですよ。辛い時は泣いてスッキリしましょう?」

 カーチャの策略…正妻の座を奪い取ろうとする作戦なのだと思った。奪い取るまでもなく、そうなることは目に見えていた。彼女は圧倒的に有利だった。そんな彼女に慰められて、私は余計に泣いたのだった。

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