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「ソーニャ、おめでとう」

これはある意味、わたしの本音でした。

「どうしたのよ???気持ち悪いわ」

ソーニャは言いました。

「ええ、でもね。あなたがアンソニー様の子供を授かったと聞いて、安心したのよ。ねえ、あなたに正妻の座を譲ろうかしら」

別に冗談で言っているわけではありませんでした。本心でした。

「へえ、あなたらしくないわね。あなたの威厳はどこにいったのよ???」

「そんなもの、とっくに捨ててしまったわ。だって、この状況でわたしがアンソニー様の正妻でい続けることなんて、どう考えても無理でしょうよ」

「そうかしら???どこぞやの国では、側室が孕って、正妻は永遠に処女だった、なんてこともあるらしいし」

「それは極めて例外でしょうよ」

わたしとソーニャはしばらく話を続けておりました。


「本当に別れるの???」

「その方がいいと思う。わたしはもう、だれからも必要とされない存在だからね」

「そう……」

ソーニャと別れて、わたしはそのままアンソニー様のところへ行きました。

「ソーニャにとって、そして、アンソニー様にとって非常に喜ばしいことですわ!!!」

わたしは盛り上げようとしました。でも、アンソニー様は何故か、わたしを前にしてガッカリしているようでした。

「それが……君の本心なのかい???」

「当然ですわ。それで……最後にひとつだけお願いしたいことがございます」

「……離縁のことか???」

さすがは勘の鋭いアンソニー様、全てお見通しのようでした。

「そこまで明確に仰るのでしたら、今更わたしから説明する必要はないですね。わたしのような役立たず……すぐさま捨ててください」

「どうしてもか???」

「どうしてもです」

「少し考えさせてくれ……」

「承知しました」

アンソニー様の答えは決まっている……はずだったのに、なかなか結論が出ませんでした。

「アンソニー様???どうして決めないのですか???これ以上、わたしをこの王宮に置いておく必要はないんですよ???」

「そういう単純な問題じゃないんだ」

「単純ですよ。ああ、理由が見つからないんですか???それなら簡単ですよ。でっち上げればいいんです。わたしが知らない男と密会していたとか……アンソニー様がでっち上げれば解決します!!!」

「そんな不義理なこと……わたしができると思っているのか???」

「できますとも!!!」

わたしは明瞭に答えました。

「そんなことはないだろう……」

アンソニー様はますます困ってしまった……でもそれ以上にわたしの方が困ってしまったのです。

「このまま王宮に居続けたら、それこそ生き地獄なんですよ!!!」

わたしの苦痛を理解して……そう言いたかったのです。

「だから、しばらく考えさせてくれ……」

アンソニー様はこの問題を解決しようとはしませんでした。

「だったら……無理矢理でも出て行きますよ!!!」

最後の実力行使をしようと思いました。

「それはダメだ!!!」

アンソニー様はわたしの手を引っ張りました。

「何がダメだっていうんですか!!!わたしは……わたしはこれ以上耐えられません!!!」

本心から涙が溢れました。もう全てを終わりにしたい……でも、アンソニー様はわたしをこの暗闇から解放してくれないのです。

色々考えを巡らせておりました。アンソニー様も正直口下手でした。だからこそ、彼は彼なりの実力行使に出ました。

「くうううううっ????」

唇を……アンソニー様は絶妙に塞ぎました。

「こうでもしないとわかってもらえないだろう???言葉ではうまく言い表せないが、愛の形は子供だけじゃないはずだ。わたしは君のことを愛している……」

不意に言われて、わたしは混乱してしまいました。

「愛している……そうだ、愛しているんだとも。わたしは君のことを心から愛している。その汚れを知らない無垢な純情……女が捨ててしまう純情を君は瞳の中でずっと輝かせている……」

アンソニー様は言い続けました。

「愛している……形なんて最初から要らなかった。わたしが君のことを愛している……それ以上何が必要だというんだね???いいだろう、わたしの愛を受け取ってくれ……」

そのあとも、アンソニー様はわたしのことを強く抱きしめておりました。

「それに引き換え、あの雌猫ときたら!!!」

アンソニー様は、急に声を荒げました。

「わたしの純情を弄んで……子供を孕んだからなんだっていうんだね???そんなもののどこが素晴らしいんだ!!!!!あのバカ女め、クレアを……これほど愛おしいわたしの妻を陥れた罪を償わせてやる!!!!!」

犯罪者の目……とでも言えばいいのでしょうか。アンソニー様は一直線にソーニャを見ておりました。

「なななななんですの???」

普段感じることのない恐怖……ソーニャは混乱していました。

「ああ、クレア。これから怒る惨状を、君に見せるわけにはいかない!!!!!」

そう言って、アンソニー様はわたしをお姫様抱っこしました。そして、わたしのために拵えた部屋に届けてくれました。

「アンソニー様???どうしたんですか???」

「君は美しい……その美しい瞳を汚すわけにはいかないんだ。だから……一生美しくあり続けるため、しばらくの間、この部屋に隔離する!!!!!外界は汚すぎる……君の純情が汚れてしまうのは許せないんだ!!!!!」

そう言って、アンソニー様は部屋を出て……外から鍵をかけてしまったのです。

「アンソニー様!!!!!ああ、なんてことを!!!!!」

「君には知る必要のないことだ。どうか、その箱庭で美しくい続けてくれ!!!!!」

そう言って、アンソニー様は笑いました。

「完璧……ああ、わかっているさ。これで完璧なんだ。あとは邪魔者を駆除すればなあ!!!!!」


「アンソニー様……おやめください……」

ソーニャの嘆きはどこにも届きませんでした。周囲にいたメイドたちはもはや、ソーニャのことを見捨てておりました。

「どうか……お助けを……」

哀れに命乞いをするソーニャ……でも、アンソニー様は彼女を決して許さなかったのです。

「お前には……クレアの受けた悲しみを背負う義務がある!!!!!」

こうして、アンソニー様の蛮行が始まろうとしておりました。これって、つまり全てわたしが悪いんじゃないか……そう考えましたが、アンソニー様はソーニャを徹底的に痛ぶろうとしました……。


(本編終了)
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