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その1
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「王子様……ご加減はいかがですか?」
「ああっ……おかげさまですっかり良くなったよ。ありがとう。それと……私の前では、王子様じゃなくて、ファンコニーだろう?」
ファンコニーはリンプルの元に詰め寄った。
「王子様!近いです!おやめください!」
「緊張しているのかい?あと数日で、私たちは夫婦になるんだよ?こうやって……君のことを抱きしめたっていいじゃないか?」
ファンコニーはリンプルを揶揄うのが好きだった。リンプルは熟れたリンゴのように頬を真っ赤に染めて、掌で顔を覆った。そんな恥ずかしがりやのリンプルを胸の中で抱きしめるのが、ファンコニーの、ここ最近の朝の日課になっていた。
「名目は……私の心臓の音を聴診する……とでも言っておけば問題ないだろう?」
「王子様……すこし……脈が速いようですね……?」
「本当かい?私もこっそり緊張しているのかな?この世界で最も美しい、私の将来の伴侶を抱いているのだから当然かな?」
「王子様!これ以上は本当に……おやめください!」
「どうして?」
「どうしてもです!」
「ムキになったリンプルも可愛いよ」
可愛い、とファンコニーに言われる度に、リンプルはまたもや顔を赤くした。
リンプルは、由緒正しき薬師の家系である15代ボアジエ公爵の長女である。リンプルもまた、薬師として、第一王子であるファンコニーに長年仕えてきた。ファンコニーは生まれつき、様々な病気を抱えていて、必然的に薬師であるリンプルと話す機会が多かった。最初は、ファンコニーが自分の症状をリンプルに伝え、リンプルが薬を調合し飲ませるという関係でしかなかった。しかし、時が経つにつれて、ファンコニーは、自分に献身的に仕えてくれるリンプルのことを好きになっていった。
勤めの時間を終えても、何か問題が起きれば一目散に駆け付けてきてくれて、容態が安定するまでずっとそばにいてくれる……ファンコニーにとって、リンプルは母親のような存在であった。
「リンプル!私と婚約してくれないか?」
ファンコニーが唐突に婚約の話を持ち出したのは、一カ月くらい前のことだった。毎日毎日、リンプルと顔をあわせるたびに、リンプルを好きだと思う気持ちが段々抑えられなくなってしまった。
「私の傍にずっといてくれないか?君のことを一生守る自信が私にはある。どうだろう?」
リンプルは、もちろん、
「それは出来ません」
と、最初のうちは答えていた。いくら公爵令嬢とは言っても、王家の人間、しかも、将来の皇帝になる第一王子と婚約することなんて、普通に考えれば無理だった。
「私は……今までのつまらない伝統なんか、ぶっ壊すよ?君を迎え入れることが、私にとってどれだけプラスになるのか、父上や母上だって理解してくれるはずだ!私が全て話を通しておくから!」
リンプルは、どうせ冗談か、一瞬の気の迷いだと最初は思っていた。しかし、一週間経って、ファンコニーが、
「この後、父上と母上に会ってはくれないだろうか?」
と言ったものだから、リンプルは、とんでもないことが起き始めたと思った。
「ああっ……おかげさまですっかり良くなったよ。ありがとう。それと……私の前では、王子様じゃなくて、ファンコニーだろう?」
ファンコニーはリンプルの元に詰め寄った。
「王子様!近いです!おやめください!」
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ファンコニーはリンプルを揶揄うのが好きだった。リンプルは熟れたリンゴのように頬を真っ赤に染めて、掌で顔を覆った。そんな恥ずかしがりやのリンプルを胸の中で抱きしめるのが、ファンコニーの、ここ最近の朝の日課になっていた。
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「王子様!これ以上は本当に……おやめください!」
「どうして?」
「どうしてもです!」
「ムキになったリンプルも可愛いよ」
可愛い、とファンコニーに言われる度に、リンプルはまたもや顔を赤くした。
リンプルは、由緒正しき薬師の家系である15代ボアジエ公爵の長女である。リンプルもまた、薬師として、第一王子であるファンコニーに長年仕えてきた。ファンコニーは生まれつき、様々な病気を抱えていて、必然的に薬師であるリンプルと話す機会が多かった。最初は、ファンコニーが自分の症状をリンプルに伝え、リンプルが薬を調合し飲ませるという関係でしかなかった。しかし、時が経つにつれて、ファンコニーは、自分に献身的に仕えてくれるリンプルのことを好きになっていった。
勤めの時間を終えても、何か問題が起きれば一目散に駆け付けてきてくれて、容態が安定するまでずっとそばにいてくれる……ファンコニーにとって、リンプルは母親のような存在であった。
「リンプル!私と婚約してくれないか?」
ファンコニーが唐突に婚約の話を持ち出したのは、一カ月くらい前のことだった。毎日毎日、リンプルと顔をあわせるたびに、リンプルを好きだと思う気持ちが段々抑えられなくなってしまった。
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リンプルは、もちろん、
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