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その10

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人間世界がこれほど混沌としているのは、エランにとっては奇妙でもなんでもなかった。聖女である自分がいなければ魔物が人間たちを襲うというのは明らかなことだった。

どれほど勇敢な戦人が立ち向かっても、絶対に勝つことなんてできなかったのだ。そう、立ち向かえばただ死ぬしかなかった。でも……そこにエランが降り立てば、魔物たちの動きが明らかに変わるのだった。

「おやめなさい。あなた方がこれ以上人間に危害を加えようとするならば……私がこの手であなた方を亡ぼすしかありませんよ???」

エランがこのようにつぶやくと、魔物たちの大半は逃げ去っていく。たまに、どこか狂ってしまったのか、エランに立ち向かおうとする魔物もいることは確かだった。だが、その場合はすぐさまエランの攻撃を受けることになって……。

「人間に危害を加え、この世界を混沌たらしめる魔物どもを永久に追放します!!!」

エランがこのように宣誓をして、そのまま目をつむる。すると……たちまち、この前のような竜巻が現れて、世界を覆ってしまった。人々は、再び震え上がった。やはり、エランは聖女ではなく悪魔なのだと誰もが思ったに違いない。だがしかし、魔物を倒すにはこれしか方法がなかったのだ。別に好きで嫌われ者になっているわけではない。どのような因果なのかはわからないが、これがエランに与えられた運命なのだから仕方がないのだ。

魔物はエランの目の前で灰になった。エランの作りだす大きな竜巻に体を巻き込まれてしまったら、人間だろうが、あるいは、魔物だろうが関係ない。すぐさま滅んでしまうのだ。

「ああ、やっと終わったか。それでは……このまま帰りましょうか???」

エランがいくら人間のために戦っても、誰も見向きなんかしないのだ。貴族たちは、この瞬間を喜ぶが、それがエランによるものだとは信じていない。仕方がないのだ。エランがこのまま帰るのを見届けると、その入れ替わりで王子コートリルとメプチンがようやく姿を出す。そして、メプチンが高らかに叫ぶのだ。

「私の力で魔物は滅びたのです!!!エランは……あの女は魔物を引き連れて、我々人間と戦っているのです!!!ですが、ご安心ください!!!!エランは逃げました。私が真の聖女たる力を発揮したので、エランは自分に勝ち目がないことを悟ったのでしょう!!!!私がいる限り、この世界は安心なのです!!!!」

まあ、人々の大半はメプチンの雄弁さ、そして美しさに感心して、その話を疑わなかった。王子コートリルも多少は疑いを持っていたが、だんだんと、本当にメプチンが聖女であると思うようになっていった。実際のところ、魔物が久々に襲来して以来、しばらくの間はこの戦いが収まっていた。

「やはり……あなたは聖女なのですか????」

王子コートリルはメプチンに質問した。メプチンはやはり、一度は困惑もした。だがしかし、こういう話が決まってしまった以上、話を曲げることはもうできなかった。これで確定……あとは仕方がない。そう決まっていたのだった。


「本当にそうかな????」

浮かれている人間が多い中、ある少年の中に大きな疑問が植え付けられたのだった……。
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