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「私の愛を…無駄にしないで!」

 繰り返しになるが、第一王女から婚約を提案されてそれを断る男というのは稀有かもしれない。バカと言われるかもしれない。それでも…僕はメリーを伴侶にしたいと思うのだ。

「そんなのは…あなたの独りよがりだ…」

 僕が言った。アンナ様はどんどん怒りのボルテージが上がっていった。

「あなた…どういうつもり?それでも、この私の婚約者のつもりなの?」

「いいえ、もうそれもやめようと思います…ブラウン公爵のようなお方がお似合いでしょう。こんなちっぽけで怖気づく貴族の方がね…」

 僕は再びブラウン公爵の方を向いた。先ほどのメリーと同じように、もう声を出すことが出来なくなっていた。

「さあ、ブラウン公爵?あなたは自らの過ちを悔いる必要があると思いますよ。貴族というのは、この世界で最も責任の重い人種でありますから…さあ、そろそろメリーに謝ってください。さもなければ、本気で殺しますよ」

 ブラウン公爵は最後のプライドを振り絞って、「貴族の誇りにかけて、そのようなことはしない…」と答えた。

「ああ、本当にバカなんだから…」

 ブラウン公爵は息が絶え絶えになっていた。鼠経にヒットしたということは足の太い動脈に刺さったことを意味し、その場合は早く手当をしないと手遅れになってしまうのだ。ブラウン公爵の周囲は段々血が増えていた。


「助けてもらいましょう、今からだったら遅くないですよ!」

 ブラウン公爵に取り巻いていた者たちが説得を行った。だが、ブラウン公爵は最後まで拒否した。それが貴族の誇りだと言うのか、バカバカしい。一体どんな誇りなのだろうか。

「ああ、ブラウン公爵が死んでいくっ!」

 悲しんでもらえるだけありがたい存在ということだ。そうでなければ…僕は少なくともそういう存在ではないみたいだからね。

「嫌だ、死んでは嫌ですよ!」

「もういいんだ…こんなろくでもない男に刺されたというのは不名誉かもしれないがな…」

「そんなことを言わないでください、私どもが敵をとります!」

 そう言って、歯向かう意思を示した者もいた。僕はそっとメリーを庇った。メリーを殺しはしない。

 僕が死ぬことはなかった。良かった、これで全てが終わった。ブラウン公爵は肉体的に、アンナ様は精神的に少しずつじわりじわりと崩壊していくようだった…。

 滑稽?僕の人生を滑稽と思うのなら、この貴族たちは始末に負えない存在となるだろう。


「あのぉ、皇帝陛下?そろそろ帰ってもいいですかぁっ?」

 僕は改めて皇帝陛下に確認をしてみた。皇帝陛下は特に怒ることもなく、「好きにすればいいさ…」と答えるのだった。



 これが青春…だろうか?

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