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「エリザベート様、ただいま戻りました……」

 メイド長のセシリアが丁重な挨拶をした。

「ああ、セシリア。お帰りなさい。お姉様とお花見をしていたの?」

「ええ、その通りでございます」

「そう、良かったわね……」

「はい、メイドたちはマリア様と一緒にお花見できたので、大変喜んでおります……」

「なるほどね」

 挨拶を終えて、みんな館に帰った。

「お姉様、夕食まで少し時間がございますから、私の部屋でお茶でも飲みませんか?」

 エリザベートの誘いを私は快諾した。

「ありがとうございます。すぐに準備しますね!」

 私は簡単な着替えを終えて、すぐにエリザベートの部屋に向かった。

「さあさあ、どうぞどうぞ!」

 この日のエリザベートはやけに調子がいいと思った。まあ、気が沈んでいるよりはこっちのほうがいいのだけど。太陽の輝きは既に消失し、外のすっかり静まり返った暗闇と帰りの旅路を急ぐ鳥のさえずりを背景に簡素な茶会が始まった。

「お姉様、いかがですか?この紅茶、美味しいですか?」エリザベートが尋ねた。

「そうだね、この紅茶とっても美味しいわ!」私は答えた。

「よかった、お姉様に喜んでいただいて、嬉しいですわ!」

 エリザベートは笑っていた。この笑顔を見ると、私はなんとなく安堵するのだった。世知辛い貴族社会の中で唯一の救い、家族愛の象徴というような。そこには、プラスの感情もマイナスの感情も一切介在しなかったから。

「お姉様、今日のお花見はいかがでしたか?」エリザベートが質問した。

「なかなかよかったわよ。そうね、メイドたちが私の新しい門出を祝ってくれているようでね」

「新しい門出……ああ、スミス王子との婚約話ですか?」

「ええ、まあそういうことかしらね……」

「それは良かった。ああ、でもねお姉様。困ったら私にも頼ってくださいね。お姉様はいつも一人で頑張ってしまう癖がありますから……」エリザベートが不思議に微笑んだ。この時、私は彼女の意図が分からなかった。

「ところで……エリザベート。あなたにも新しい春がやって来るといいわね」

 私は思わず口走ってしまった。

「お姉様、本気でそう思っているのですか?」エリザベートは大方私の考えを分かっているようだった。そう、大切な妹が嫁いでしまう……私から遠くに行ってしまうのがなんとも悲しいと思うのだ。

 そうかそうか、お見通しだったとは……。

「大丈夫ですよ。お姉様。私はいつでも、常にお姉様の近くにおりますから……」

 でも、それだとエリザベートの幸せを叶えることができない……ああ、私はなんて都合のいい女なんだ、と考えてしまった。自分だけ最強の婚約者を見つけて幸せの絶頂……それでいて、大切な家族は縛り付けてしまう。これは本来ダメなことだよね。

「お姉様、心配しなくて大丈夫ですからね?」エリザベートは再び微笑んだ。

 そう、私はエリザベートの微笑みを何も理解していなかったのだ。
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