婚約破棄されて殺された公爵令嬢は傭兵に恋をする

復讐の始まり

「本当に来たのか……」ジョンは言いました。やはり、信じられない光景だと思いました。

「言ったでしょう。このまま死ぬつもりはないって」エリザベートは言いました。

「そうかそうか……まあいいさ。せっかく与えられた命だから有効に使わないとな。それで……お前さんが知りたいのは、どうして俺がお前さんを殺すことになったか、ということだったかな」

「ええ、そうよ。あなたとエージェントの話をなんとなく盗み聞きしたから少しは分かった。でもね、いまいち釈然としないのよね。私の記憶の中で……正確にはないんだけど、殺されるほど大変なことをしてしまったのかということね……」

「ああ、その話だな……。俺も詳細は聞いていないんだが……今回の黒幕は王女マリア様だそうだ……」

「王女マリア様……聞いたことがあるわね……」

「お前さんの恋のライバルだったそうだぞ……」

「恋のライバルですって？」エリザベートは首を傾げました。

「今まで恋なんてしたことあるのかしら……」

「それは多分、お前さんの記憶が欠落しているせいだろうさ。正確に言えば、お前さんの恋なのかどうかは分からないが、お前さんは時の第一王子スミス様と婚約することになっていたんだ……」

「第一王子ですって！？」エリザベートは思わず大声を出してしまった。

「私、そんなすごい人と婚約することになっていたの？」

「ああ、そうだ。この件については、もはや庶民も知っている話だ。一説によると、お前さんの御父上が尽力したそうだが……」

「お父様が？」エリザベートは少し考えました。

「まあ、お前さんは公爵家の人間だからな。王家とのコネクションを強くするための政略結婚と言ったところかな。俺も同じような例をいくつか見てきたわけだが……」

「ふーん……そうなんだ……」エリザベートは納得しました。

「それで、王女のマリア様がどうしてこの話に出てくるの？」

「ああ、それがマリア様はスミス様に恋していたそうなんだ。だが、二人の婚約は非常に近い血族婚となってしまうから、皇帝陛下を始め王家の人々はタブー視していた。だから、二人が結ばれることは結局なかった。そこに、お前さんがスミス様の婚約者になるかもしれないという話が舞い込んできた。皇帝陛下とお前さんの御父上は旧知の中だったそうで、婚約の話もとんとん拍子に進んでいったそうだ……」

「なるほど。ということは、王子スミス様を私に奪われたことの腹いせで、マリア様は婚約破棄と同時に私をこの世界から抹殺することを考えたってわけね……」エリザベートは理解しました。

「まあ、そんなところだろうな……」ジョンは言いました。

「それで……私が生きていることは、あなたを殺しに来たエージェントにばれたわけだから……再び私を殺しに誰かがやって来るってことになるのかな……」エリザベートは心配になりました。

「まあ、そう言うことになるだろうな……」ジョンは言いました。

「そうか……まあ、どういうわけだか私はこうして生きているんだけど、そしたら家族が危ないわね……。お父様やお母様、それに友達の命が……私を捕まえるのに躍起になっているはずだから、いつ彼らに危害を加えるか分からないものね……」エリザベートの心配は増大するばかりでした。

「まあ、その可能性は高いな……」

「だとしたら、殺される前に彼らを制圧すれば……いいのかしら？」

「お前さん……本気で言っているのか？」

　エリザベートの発言に、ジョンは耳を疑いました。

「だって、そうするしかないでしょう？」

「いや、そうなんだけど……お前さん一人で王家と戦おうって言うのか？」

「だって、そうするしかないでしょう？」

「いや、そうなんだけど……まあ、そうだな……」

「よし、決まった。とりあえず、マリア様に会いに行けばいいわね。直接話をして、もしも殺すというんだったら、大人しくその場で殺されれば一件落着ってことでしょう？」

「まあ、そう言うことだけど……。お前さんはそれでいいのか？」

　話が急激に進みすぎて、ジョンは混乱してしまいました。

「ええ、なんだか私が死なずに生きているのって、そう言うことだと思うから……」

　そう言い残して、エージェントは洞窟を後にしました。そして、王宮を目指しました。この世界は美しく、自らが正義だと思いました。だからこそ、このまま何もせず死んでいくのは避けたかったのです。王女マリアと相対して復讐を遂げる……それができなかったら、マリアの前で殺される未来でもいいと思っていました。