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 安楽所はそれから一週間足らずで完成した。ファンデルワールスは完成した姿を見ようと思ったが、それは多方面からの圧力で不可能となった。数少ない友人であるトンプソンは、万が一の事件を警戒した。貴族の中の貴族であるエバンスは品位を落とすことになるとして、当然反対した。

 代わりと言ってはなんだが、毎週の学生会で安楽所の運営実態についてはきちんと報告するよう、ファンデルワールスは指示を出した。エバンスの指揮系統に基づいて、その報告がなされることとなった。

「状況はどうかね???」

 と、ファンデルワールスが尋ねると、答えはいつもお決まりで、

「繁盛しております!!!」

 と言った具合だった。

「繁盛していると言うのは……それで少しは、互いに心身を癒すことができているのかね???」

 ファンデルワールスが突っ込んで質問すると、エバンスは大抵、話を遮るのだった。

「そんなことは……あなた様が心配する問題ではございません。また、これは男女のデリケートな問題でございますから、一概に結論を出すことは難しいかと……」

 まあ、その通りだった。ファンデルワールスもここまで言われてしまうと、何も言葉を返せなかった。

「まあ、問題なく進むならそれでいい……」

 結局のところ、エバンスにまかせっきりとなってしまったのだ。


「随分と難しい顔をしているね……」

 トンプソンはファンデルワールスの表情を見逃さない。悩んでいる……その表情を目の当たりにして、なにか力になれないか、考えていた。

「学生会の話か……」

「ああ、僕の知らない世界で大きな渦が生まれている……」

「エバンスの例の計画のことかい……」

「…………その通りだ」

「しかし、君が心配したところで、仕方がないことだろう。男は女の身体を認め、女は男の身体を求める……世界に二つの性別がある限り、これは必然なのだから」

「まあ、そう言うことだがな……」

「それはそうと……エリーナの件はどうなったんだ???」

「エリーナ……ふふっ、僕の永遠の愛だね」

「次の相手は……一体どうするつもりなんだ???」

「次も何も、この件についてはもう決着した話じゃないか……」

 ファンデルワールスはいつも、これ以上話を進めようとしない。勿論、世界にとっては大問題である。なんとか力になれないものかと、トンプソンは考えを巡らせているのだ。

「いや……いつまでもエリーナに拘っていてはだね……話が前に進まないじゃないか……」

 ファンデルワールスはトンプソンの話を遮った。

「君の言いたいことはよく分かる。だがね、僕には前も後ろもないんだ。たった一人の愛しい女……彼女しかいないんだよ。変わりはいない。だから……もう終わっているんだ。いや……ひょっとしたら、彼女は」

「もう死んでいる……」

 トンプソンは執拗に現実を押し付ける。彼の仕事と言わんばかりに。まあ、国家の安泰を第一に考えるならば、結局のところそれが必然となってしまうから。

「トンプソン……今日はもう帰ろう」

 エリーナの一件を経て、ファンデルワールスはなるべく変わらない日常を模索した。しかし、結果として日常は変わり果て、それはどんどん腐るリンゴのように彼の頭を貪り続けた。 

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