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スラム街と言うのが、どうしてこれほどまでに陰湿な空間なのか分からなかった。それが、単なる人間の欲望の終着地なのか、あるいはもっと他の原因があるのか……。

「こんなところには似つかわしくないお嬢さんだな……」

先程の色男たちとはまた違った意味で独特な男たちがたむろしていた。

「ねえ、私のことを買ってくれる人はいないかしら???」

マリアがそう言うと、早速何人かの候補が名乗りでた。

「いいのかい???そんなこと言って……」

「ええ、でもね、高くつくわよ」

「ほお、そうかい。上等だ……」

先程の男たちとはわけが違う……こっちは筋金入りだとマリアは思った。屈曲の度合いが違い過ぎるのだ。

「お嬢さん……本当にいいのかい???」

「いいって言ってるでしょう???」

マリアは呆れた。早く金を貢いでほしい……それだけしか考えていなかった。

「ああ、こんな上物を手にすることができるだなんて……おい、ヒース。お前はどうするんだ???」

「私は……止めておくよ」

「おいおい、意気地ないな。まあいいさ。俺たちが盛っているのを見て、精々慰めてるんだな!!!」

ヒースと呼ばれたその男は、鷹のような鋭い目でこちらを見ていた。女遊びとか、そういうものには興味を示さないようだった。若いのに、色々と達観しているご様子……マリアにとって非常に興味深い男だった。

「私は……自分の信じる道を生きるだけだ……」

「ああ、いつまでも言ってろ!!!」

表向きは売れない占い師だそうだ。

「お嬢さんは……ああ言う男に興味があるのか???」

後ろから徹底的に攻められながらも、マリアはずっとヒースの方を見ていた。

「興味と言うか……なかなか面白い男だと思ってね……」

「だそうだ、ヒース!!!お前もお嬢さんを抱かないか???」

「私はそういうものには興味がない。ただ……この世界の成り行きにしか興味がないんだ」

「と言った具合なんですよ、お嬢さん。変わってるでしょう???」

男たちはヒースを嘲笑った。だが、次の瞬間、マリアはますますヒースのことを興味深く感じるようになるのだった。
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