上 下
3 / 9

3

しおりを挟む
さてさて、婚約破棄が無事に成立したマリアであったが、大きな問題が生じることになった。というのも、地位を失い、一文無しで放り出されてしまったため、生活する術がなかったのだ。今まで、基本的には不自由を感じることなく生活してきたために、これは非常に厄介なことだったのだ。

「とりあえず……人が集まる街に行ってみるか……」

マリアはそう考えた。仕事を斡旋してくれるかもしれない……そう思ったのだ。


「あのお嬢さんは……どこの出身なんだ???」

「あんなに綺麗な方を見かけたことはないよ……」

「どれだけ頑張っても……あの美しさを手に入れることなんてできない……」

マリアが一歩、また一歩進むたびに、街中の人々が彼女の容姿に見とれるのだった。貴族の世界でも限りなく頂点に近い美しさであるわけだから、庶民世界に降り立ってしまえば、それはもう神をも凌ぐ美しさ、ということになるようだった。

「お嬢さん……ひょっとして迷子ですかい???」

直接話しかけてくる男もいたが、その大半の男はろくでもない連中だと一目見てわかるのだった。

「迷子……強いて言えば、そんな感じでしょうか???」

「だったら……私のところに来ませんか???泊めてあげますよ……」

男たちが集まってくる。そうすると、買い物に出ている婦人連中が、すかさず、

「よしなさいよ」

と注意してくれる。まあ、言われる前に分かっていることなのだが……。

「よしなさいって……あんたらが決めることじゃないだろう???こちらのお嬢さんが決めることなんだから……」

マリアは興味がなかった。

「ねえ、それより何か稼ぐ手段はありませんか???」

マリアが問い尋ねると、男たちは目の色を変えて、

「お嬢さんともっと親密になることができるならば……考えてもいいですぜ???」

なんて言い始めた。

「なるほど……つまり、身体を売ればいいってことですか……」

マリアはあっさりと言ってしまった。その瞬間、街が一瞬凍り付くのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...