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「レオンハルト殿下」
「なんだ」
「どうかされましたか? 先ほどから難しい表情をされていますが……」
「なんでもない。それよりも、お前はリリアーナ嬢のことを知っているんだったな?」
「はい。何度かお会いしたことがあります」
「……どんな印象を持っている?」
「……とても可愛らしい方でした。いつも笑顔を絶やすことなく、誰に対しても優しい態度を崩さない。まさに聖女のような女性だと私は思っています」
「……そうか(やっぱりな)」
「それが何か?」
「いや、何でも無い」
「は、はぁ……」
「それで他には何かあるか?」
「他にですか?」
「ああ、何か気になることがあれば教えてくれ」
「わかりました。では一つだけよろしいでしょうか?」
「言ってみろ」
「彼女は一体何者なのでしょう?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味です。あの容姿に性格、それに身につけている物まで全てが一級品のものばかり。普通に考えて、彼女ほどの女性が無名であるはずがないと思います」
「確かにそうだな」
「何か事情があるのかもしれませんが、それでもどこか引っかかりを覚えてしまいまして」
「そう思う理由は?」
「私が見る限り、彼女の言動はあまりにも不自然すぎるのです」
「不自然な振る舞いをしているということか」
「はい。それに、あの方は私に話しかけてくる時、必ずと言っていいほど視線を合わせようとしないんです。まるで私の顔を見たくないと言わんばかりの行動をとるんですよ。私、嫌われるようなことをしてしまったのでしょうか?」
「いや、それは違うだろう」
「そうですか? でも、それならばなぜでしょう?」
「それは本人に直接聞くしかないだろう」
「そうですね」
レオンハルトは彼女のことが全く理解できなかった。彼女の知り合いになんとなく声をかけてはみるが、やはりその実態を正確に把握している人はいなかった。

リリアーナとクリスティーナは互いに少しだけ顔を見合わせた。
「ふぅ~疲れた~」
「大丈夫ですか?」
「うん。ちょっと緊張しちゃって」
「わかるわ。初めて参加する舞踏会なんて特にそうなってしまうものよね」
「えぇ」
「ねぇ、よかったら少し外の空気に当たってきたらどう?」
「外ですか?」
「ええ、バルコニーに出てみれば気分転換になるかもしれないわよ」
「……それもそうですね。行ってきます!」
リリアーナはクリスティーナにとって良きお姉さまを演じようとしていた。その目的はやはり、レオンハルトの心をつなぎとめるためだった。
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