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「アンナ、愛しているよ!」

 婚約者であるスティーブンは毎朝私に愛を囁く。学院までの通学路にて。

「私も愛しております!」

 私は婚約者の愛に答える。そうすると、スティーブンは人目も憚らず、キスをすることがある。

「あの…スティーブン?さすがに恥ずかしいのですが…」

「恥ずかしいだって?気にすることはないさ。いずれ明らかになることだから…」

 スティーブンの容姿は端麗であり、同級生の令嬢から非常に評判であった。そんなスティーブンが大して美しくもない私の婚約者になったのは、スティーブンの父と私の父が友人だから、というシンプルな理由である。私にとって彼は高嶺の花であった。時には同級生から嫉妬されることもあった。イジメを受けることもあった。そんな私をスティーブンは救ってくれた。まるで王子様のように。婚約者だから助けるのは当然か。

 でもね…結論から言うと、スティーブンが私との婚約に満足していないことに気付いていた。私に囁いてくれる愛は時々本物のように聞こえる…でも、大半は偽物なんだ。

 スティーブンが本心から愛している(と思われた)女の詳細を私は知らなかった。私たちの婚約が近づいて、普通だったら夜なんかロマンティックに2人で過ごすことが多くなるはずなのに、決してそんな風にはならず、むしろ1人で夜空を見ることが多くなった。

 スティーブンは恐らく、ほかの女と会っている。そう考えると納得出来た。いや、それも含めて最初から分かってはいたんだ。やっぱり、私はスティーブンに釣り合う女ではないと…。


 その知らせはお父様の怒鳴り声から始まった。

「アンナ!学院から追放処分が下ったぞ!」
 
 追放処分…言葉の意味が分からなかった。

「追放処分?それは一体、どういうことですか?」

「お前、この期に及んでとぼけるのか?」

「とぼけるも何も…私が一体何をしたとおっしゃるのですか?」

「…本当に心当たりがないのか?」

「あのお…恐縮ですが、何も思い当たることはございません…」

 しばらくの間、沈黙が続いた。そして、お父様の怒号と続いた。

「お前は…自らの過ちを認めないほどクズな令嬢になり下がったのか!」

「ですから…私はなにも…」

「うるさい、口答えするな!!!」

 お父様の剣幕を止めることは出来なかった。

「そんな令嬢に育てた覚えはない…もうこの家から出ていけ!!!」

 本気だとは思わなかった。これだけ愛情を持って育ててくれたお父様の口から…そんな言葉が出てくるなんて思ってもいなかったから。


「ああ、それと…スティーブンとの婚約は解消だ!!!」

 不思議なことに、私はこの事実に直面してそれほど慌てなかった。

 結局、お父様に反論することは出来ず、生家からの追放とスティーブンとの婚約の解消が決まった。私は…行き場を失った元令嬢に成り下がった。











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