神様と翼のない少女

岡暁舟

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生存者

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 人々が段々と集まってきてある種のお祭り騒ぎとなっていた。これは全く良くないと思った。人の不幸を悲しむことが出来る一方で、訳もなく叫ぶ輩も多くいて、そう言った人間こそ速く死ねばいいと思った。

「どいてください!」

 救助する人々が迅速さを求めるのに、こうした野次馬たちが邪魔をする。本当に邪魔。それはそうと……そろそろ仕事をするか……僕が必要とされているかはよく分からないけど。

「どなたか、医療関係者の方はいらっしゃいますか?」

 僕は少し前に出てみた。

「あなたは、医療関係者ですか?」

「ええ、まああ、そんなところです」

「ああ、よかった。それでは……今から救急車を呼ぶのですがそれまでの応急手当てをお願いしてもいいですか?」

 世間体とか名声とか、そんなものはほとんど気にしていなかった。とにかく、目の前の人間を救う……社会の交通整理を生業とする僕の頭が少しずつ動いていく。いつもの……いや、あの時のように想像を働かせる。総頸動脈を触れてみると、触知しないので心肺停止である。そうか……きっと窒息なのだ。海の中で溺れていた……。

「助かりません……これはもう厳しい……」

 交通整理の結果、彼は死亡していた。心肺停止になってから1時間は経過していただろうか、瞳孔は両側で散大していた。対光反射は消失しており、もう死亡以上の診断は出来ない状態だった。

 そう……今までであれば、僕はこのまま何もしなかった。交通整理は済んでおり、後は家族の到着を待つことしかなかった。そこで死亡確認をして終了。それでいいのだ。と言うか、それしかない。

 心臓マッサージ?気管挿管?いや、死体にそんなことをするはずがない。そう、とりあえずマッサージ……なんてことは僕にとって愚かなことだった。

 それなのに……そう、自由になったのかもしれない。僕は心臓マッサージを開始した。

 彼は生存者……考え方が変わったのか、どんどん自由になっていった。
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