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黒幕
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「それで・・・君たちがこうして整列しているのはどうしてだ?」
黒幕は僕を取り囲んでいた大人たちに声をかけた。先ほどは僕を取り囲んで守るよう・・・今度は整列して黒幕の目になるべく触れないような場所で待機していた。
「どうして・・・と言われましても・・・」
「君たちはこの若造が怖いのか?」
「いいえ、そのようなことはありませんが・・・」
「だとすると、あの厚遇は一体なんなんだ?」
「厚遇と申しますと?」
「とぼけるな・・・ああ、これ以上何も言うことはない!」
そう言い去ると、黒幕は僕に最接近して、いきなり拳を振り上げた。僕は思わず防御姿勢をとった。幼い頃は慣れっこであったが、最近こうして面と向かうことがないので、やはり驚いてしまった。
「ちっ・・・昔と変わらないな・・・」
黒幕は言った。僕としてはいくらか変わったと思っている。でも、僕がどうなっても、黒幕は変わったという事実を認めることは絶対にないと思った。黒幕と僕の関係は何十年たっても変わらいのだ。きっと。
「僕は法に守られていますから・・・その拳を投げつけた瞬間、あなたもまた犯罪者になるんですよ?」
僕は冷静なつもりだったが、癪に障ったのか、黒幕は法律を無視して構わず僕を殴った。顔面の骨が折れるんじゃないかと思うくらい強烈だった。
「大丈夫ですか!」
僕はその場に倒れこんだ。
「ええ、なんとか・・・」
殴られることには慣れていた。でも、今回の拳はいつにもまして強烈だと思った。いや・・・正確に言えばあの頃を正直には覚えていないだけなのかもしれない。忘れたい過去・・・それでも完全に忘れることなんて出来ない。切り離したい因果・・・それでもこうして巡ってくる。僕はまだ黒幕の属国なのだと思った。
独立を許可しない・・・そうであればこの際だから正面切って勝ち目の薄い戦争を始めるしかないと思った。だから、僕は興奮して叫んだ。
「あなたに一体何の権利があるというのですか!僕を殴る権利が・・・どこにあるというんですか!」
一瞬、保護してくれた大人たちを見回した。ああ、今回に関してはすぐに自分のやっていることが全部無駄なのだと分かった。彼らは黒幕の手下なのだから、黒幕と敵対した場合は誰も僕の味方をしないのは明白なのだ。
「お前みたいな人間にはこれくらいしないと分からないだろうが!」
黒幕は僕を追いかけて、再度殴りかかろうとした・・・僕はなんとかかわすことが出来た。
「逃げるのか・・・やはり何も変わっていないな・・・」
もう終わりにしたい・・・僕は思いっきり叫んだ。
「こんな社会・・・ふざけるな!」
そして、消極的に死刑でも無期懲役でもなんでもいいから、とにかくこの現場から離脱したかった。離脱するためにはいくつか方法があるが・・・あの時の誓いを果たすため、恐れ多いかもしれないが黒幕の命を狙おうと考えたわけだ。
「なんだその目つきは・・・まるで獣のようだな。それでも、この私に勝つことなんて出来ないだろうが・・・」
「それは、やってみないと分かりませんよ。ああ、正直僕の人生は終わっている・・・ここであなたを抹殺することが出来たら、ようやく正式に終わらせることが出来ると・・・そう思います」
「お前は・・・どこまで不幸な人間なんだ。ああ、これだから・・・」
僕は本気で黒幕の命を奪おうと思った。周囲の大人たちが静止しても、もう止まらず進もうと思った。
「僕のために・・・このまま死んでください・・・」
「なんだって?もう一回言ってみろ!」
「ですから・・・僕のために死んでください!」
「どうしてお前のために死ななければならない?なあ、滑稽な話だなあ!」
黒幕が再び僕のことを殴ろうと距離を詰めてきた。
黒幕は・・・僕は最初から生まれてこなければ良かった。黒幕は・・・僕がこの世界に誕生した瞬間何を思ったのだろう。知性に溢れる黒幕のことだから、これが人間の正しい、というよりかは義務化された営みとでも考えたのだろうか。先祖から子供へ、代々受け継がれていくある種の義務・・・感情なんてないのか。
悲しんでいいじゃないか。僕に与えられた感情と言えば、精々悲しみや憎しみしかないのだから。どれほど追いかけても届かない喜び・・・届く前に悲しみの雨が降り注ぐのだから。そんな時は大声で泣いた・・・そんな風に泣いてしまうのも、バカみたいと嘲笑われて終わる。
僕が悪いけど、そんな僕を生み出した人間・・・社会にとっては大きな負の遺産なのだから、共に消えてしまえばいいのだ。2人が消えて社会が変わることはないだろう。でも・・・少しでも僕が生きていた証を刻むことが出来るとすれば・・・この呪縛を終わらせることなんだ。
神様に感謝したい。神様は最後、僕に仕事を与えてくれた。神様の真似事をして申し訳ない。今、ここで全てを終わらせるので、どうか赦してください。天国に行きたいとは思いません。地獄で結構ですが・・・どうか、今度は1人で歩ける世界に導いてください。呪縛のない孤独な世界へ・・・。
聴きなれた声だった。確かに、大きな悲鳴だった。どうやったのかは覚えていない。だって、多数の大人が見守る中で、こんなちっぽけな僕が人を傷つけることなんて出来ないはずなんだ。でも、出来たようだった。
「このクソガキが!!!」
黒幕は・・・まだ死んでいない。さすがに抹殺することは出来なかった、残念だと思った。そんなもので周囲を見てみると不思議に先ほどまでいた大人たちの姿がなかった。これは一体、どうしたものか。
「どうして・・・こうも私だけが被害を被るのだ・・・悪いのは全部お前なのに・・・」
僕は顧みずに、この場で存分に最後の仕事を達成出来ると確認した。僕は黒幕を抑え込んだ。
「どうして・・・こんなに力強いんだ・・・」
「それは・・・蓄積したあなたへの恨みがあるからですよ・・・」
「ああ、そうなのか・・・」
僕は黒幕の首に手を掛けた。あれほど勇ましかった罵倒はすっかりなくなった。
「これで本当に終わりなのか・・・ああ、私もお前も、これで終わりなのか・・・」
僕は躊躇しなかった。黒幕の顔色が段々と青ざめていく・・・それでもまだまだ息は途絶えていなかった。
「ああ、終わりなんだな・・・本当に・・・」
初めての独立・・・長年の夢がもう少しで手に届く・・・。
黒幕はまだ生きていた。黒幕の命を目の当たりにして、知らずと涙が溢れてくる・・・。
「泣いて・・・いるのか・・・お前はやはり・・・まだ弱いんだな・・・あの頃と何も変わらない・・・」
嬉しいんだよ、きっと。そう思って僕は続けた。だって、黒幕を抹殺出来るんだから、長年の悲願がここに達成出来るのだから、これは正直に嬉しいって感情なんだよ!
僕はそう言い聞かせた。初めての感情なんだ、きっと。悲しみと憎しみしかなかった今までの人生。ここに新しい1ページが加わるのだから!なんとめでたい日じゃないか・・・ほら、どんどんと涙が溢れてきて、黒幕の姿をまともに見ることが出来ないじゃないか・・・。
「ああ、終わり・・・全てが終わり・・・お前の手に落ちるなら、仕方のないことだ・・・」
10分くらいだろうか、僕は黒幕の首元をおさえ続けた。黒幕の呼吸が段々と浅くなり最終的には完全に止まった。もちろん蘇生行為はしない・・・僕はこの時初めて独立を達成することが出来た。嬉しい・・・そう、嬉しい瞬間が訪れたのだ。待ち望んだ自由を手に入れて・・・都合よく消えていった大人たちが戻ってくるのを、僕は暫く待つことにした。
黒幕は僕を取り囲んでいた大人たちに声をかけた。先ほどは僕を取り囲んで守るよう・・・今度は整列して黒幕の目になるべく触れないような場所で待機していた。
「どうして・・・と言われましても・・・」
「君たちはこの若造が怖いのか?」
「いいえ、そのようなことはありませんが・・・」
「だとすると、あの厚遇は一体なんなんだ?」
「厚遇と申しますと?」
「とぼけるな・・・ああ、これ以上何も言うことはない!」
そう言い去ると、黒幕は僕に最接近して、いきなり拳を振り上げた。僕は思わず防御姿勢をとった。幼い頃は慣れっこであったが、最近こうして面と向かうことがないので、やはり驚いてしまった。
「ちっ・・・昔と変わらないな・・・」
黒幕は言った。僕としてはいくらか変わったと思っている。でも、僕がどうなっても、黒幕は変わったという事実を認めることは絶対にないと思った。黒幕と僕の関係は何十年たっても変わらいのだ。きっと。
「僕は法に守られていますから・・・その拳を投げつけた瞬間、あなたもまた犯罪者になるんですよ?」
僕は冷静なつもりだったが、癪に障ったのか、黒幕は法律を無視して構わず僕を殴った。顔面の骨が折れるんじゃないかと思うくらい強烈だった。
「大丈夫ですか!」
僕はその場に倒れこんだ。
「ええ、なんとか・・・」
殴られることには慣れていた。でも、今回の拳はいつにもまして強烈だと思った。いや・・・正確に言えばあの頃を正直には覚えていないだけなのかもしれない。忘れたい過去・・・それでも完全に忘れることなんて出来ない。切り離したい因果・・・それでもこうして巡ってくる。僕はまだ黒幕の属国なのだと思った。
独立を許可しない・・・そうであればこの際だから正面切って勝ち目の薄い戦争を始めるしかないと思った。だから、僕は興奮して叫んだ。
「あなたに一体何の権利があるというのですか!僕を殴る権利が・・・どこにあるというんですか!」
一瞬、保護してくれた大人たちを見回した。ああ、今回に関してはすぐに自分のやっていることが全部無駄なのだと分かった。彼らは黒幕の手下なのだから、黒幕と敵対した場合は誰も僕の味方をしないのは明白なのだ。
「お前みたいな人間にはこれくらいしないと分からないだろうが!」
黒幕は僕を追いかけて、再度殴りかかろうとした・・・僕はなんとかかわすことが出来た。
「逃げるのか・・・やはり何も変わっていないな・・・」
もう終わりにしたい・・・僕は思いっきり叫んだ。
「こんな社会・・・ふざけるな!」
そして、消極的に死刑でも無期懲役でもなんでもいいから、とにかくこの現場から離脱したかった。離脱するためにはいくつか方法があるが・・・あの時の誓いを果たすため、恐れ多いかもしれないが黒幕の命を狙おうと考えたわけだ。
「なんだその目つきは・・・まるで獣のようだな。それでも、この私に勝つことなんて出来ないだろうが・・・」
「それは、やってみないと分かりませんよ。ああ、正直僕の人生は終わっている・・・ここであなたを抹殺することが出来たら、ようやく正式に終わらせることが出来ると・・・そう思います」
「お前は・・・どこまで不幸な人間なんだ。ああ、これだから・・・」
僕は本気で黒幕の命を奪おうと思った。周囲の大人たちが静止しても、もう止まらず進もうと思った。
「僕のために・・・このまま死んでください・・・」
「なんだって?もう一回言ってみろ!」
「ですから・・・僕のために死んでください!」
「どうしてお前のために死ななければならない?なあ、滑稽な話だなあ!」
黒幕が再び僕のことを殴ろうと距離を詰めてきた。
黒幕は・・・僕は最初から生まれてこなければ良かった。黒幕は・・・僕がこの世界に誕生した瞬間何を思ったのだろう。知性に溢れる黒幕のことだから、これが人間の正しい、というよりかは義務化された営みとでも考えたのだろうか。先祖から子供へ、代々受け継がれていくある種の義務・・・感情なんてないのか。
悲しんでいいじゃないか。僕に与えられた感情と言えば、精々悲しみや憎しみしかないのだから。どれほど追いかけても届かない喜び・・・届く前に悲しみの雨が降り注ぐのだから。そんな時は大声で泣いた・・・そんな風に泣いてしまうのも、バカみたいと嘲笑われて終わる。
僕が悪いけど、そんな僕を生み出した人間・・・社会にとっては大きな負の遺産なのだから、共に消えてしまえばいいのだ。2人が消えて社会が変わることはないだろう。でも・・・少しでも僕が生きていた証を刻むことが出来るとすれば・・・この呪縛を終わらせることなんだ。
神様に感謝したい。神様は最後、僕に仕事を与えてくれた。神様の真似事をして申し訳ない。今、ここで全てを終わらせるので、どうか赦してください。天国に行きたいとは思いません。地獄で結構ですが・・・どうか、今度は1人で歩ける世界に導いてください。呪縛のない孤独な世界へ・・・。
聴きなれた声だった。確かに、大きな悲鳴だった。どうやったのかは覚えていない。だって、多数の大人が見守る中で、こんなちっぽけな僕が人を傷つけることなんて出来ないはずなんだ。でも、出来たようだった。
「このクソガキが!!!」
黒幕は・・・まだ死んでいない。さすがに抹殺することは出来なかった、残念だと思った。そんなもので周囲を見てみると不思議に先ほどまでいた大人たちの姿がなかった。これは一体、どうしたものか。
「どうして・・・こうも私だけが被害を被るのだ・・・悪いのは全部お前なのに・・・」
僕は顧みずに、この場で存分に最後の仕事を達成出来ると確認した。僕は黒幕を抑え込んだ。
「どうして・・・こんなに力強いんだ・・・」
「それは・・・蓄積したあなたへの恨みがあるからですよ・・・」
「ああ、そうなのか・・・」
僕は黒幕の首に手を掛けた。あれほど勇ましかった罵倒はすっかりなくなった。
「これで本当に終わりなのか・・・ああ、私もお前も、これで終わりなのか・・・」
僕は躊躇しなかった。黒幕の顔色が段々と青ざめていく・・・それでもまだまだ息は途絶えていなかった。
「ああ、終わりなんだな・・・本当に・・・」
初めての独立・・・長年の夢がもう少しで手に届く・・・。
黒幕はまだ生きていた。黒幕の命を目の当たりにして、知らずと涙が溢れてくる・・・。
「泣いて・・・いるのか・・・お前はやはり・・・まだ弱いんだな・・・あの頃と何も変わらない・・・」
嬉しいんだよ、きっと。そう思って僕は続けた。だって、黒幕を抹殺出来るんだから、長年の悲願がここに達成出来るのだから、これは正直に嬉しいって感情なんだよ!
僕はそう言い聞かせた。初めての感情なんだ、きっと。悲しみと憎しみしかなかった今までの人生。ここに新しい1ページが加わるのだから!なんとめでたい日じゃないか・・・ほら、どんどんと涙が溢れてきて、黒幕の姿をまともに見ることが出来ないじゃないか・・・。
「ああ、終わり・・・全てが終わり・・・お前の手に落ちるなら、仕方のないことだ・・・」
10分くらいだろうか、僕は黒幕の首元をおさえ続けた。黒幕の呼吸が段々と浅くなり最終的には完全に止まった。もちろん蘇生行為はしない・・・僕はこの時初めて独立を達成することが出来た。嬉しい・・・そう、嬉しい瞬間が訪れたのだ。待ち望んだ自由を手に入れて・・・都合よく消えていった大人たちが戻ってくるのを、僕は暫く待つことにした。
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