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コメディー
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「アニー。私は君との婚約を破棄したいと思っているんだ」それは、ある日の放課後に学園内の庭園での出来事だった。
俺――クレイ・フォーサイトは、婚約者であるアネモネ王女ことアニーに向けてそう告げたのだ。
しかし、当の本人はキョトンとした表情を浮かべているだけ。
「……え?」
そして、そんな間の抜けた声が彼女の口から漏れる。俺は構わず続けた。
「君は今まで何度も問題を起こしてきただろう? 先日も廊下を走ったりして、他の生徒達から苦情が殺到していたじゃないか! しかも、それだけではなくてだな……」
そこで一旦言葉を切り、深呼吸をして気持ちを整えると、再び口を開いた。
「この前なんて、中庭の花壇を踏み荒らしたりしていたらしいじゃないか!」
「あー……あれね。うん、確かにやったわよ」
彼女は悪びれる様子もなく平然と答える。その態度に思わずイラッときてしまう。
「ほら見ろ! やっぱりお前が悪いんじゃないか!!」
「いやぁ、ごめんなさいね。でも、花壇の管理をしている人がちゃんとお手入れしているか気になったし、それにあの時はまだお昼休み中だったじゃない? だから急いでいたのよね」
「何だと!?……という事は、他にも色々とやってそうだな」
「ん~まぁ、細かい事も含めれば結構あると思うけどね。例えば、授業中に居眠りした男子生徒に対してチョークを投げ飛ばしたりとかね」
「なんだって!?……ちょっと待ってくれ。まさかとは思うが、その時に投げつけたチョークというのは……」
「私だけど何か?」
アニーはそれがどうしたという感じで、さも当然のように言い放った。
「お前の仕業なのか!! 一体どういうつもりだっ!!!」
あまりの事に我慢できず、つい怒鳴ってしまった。しかし、それでも彼女は涼しい顔を崩さない。
「だって、居眠っていた方が悪いんでしょ? なら仕方ないじゃない」
「仕方なくはないぞ! そもそも、教師でもないお前が何故授業中の教室に入る事ができるんだ! それにチョークを投げつけるのはやり過ぎだろう!!」
「そこはほら、何とか誤魔化して入り込んだわけだし、投げつける方は加減したから大丈夫だよ」
「そういう問題ではないだろ! 大体、どうしてそこまでするんだよ!?」
「そりゃあ、先生達が怒ると面倒くさいからだもの。ただでさえ最近うるさくなってきているっていうのに」……なんという奴だ。呆れてものも言えない。
「とにかく、今回の件については反省してもらうぞ!」
これ以上話しても無駄だと思い、一方的に話を終わらせようとしたのだが……。
「うーん、それは無理かな」
「何だと!?……ふむ、一応理由を聞いてやる」
「だって、私の行動を制限する権利が貴方にあるのかしら?」
「…………」
それを言われてしまうと何も言えなかった。
確かに、俺は彼女の婚約者であって保護者ではないし、ましてや王族ですらないので命令権など持ち合わせていないのだ。……だが、このまま引き下がる訳にはいかない。
「……分かった。では、こうしようではないか。今後一切の問題行為は起こさず、大人しくする事を誓え」
すると、アニーは少し考える素振りを見せた後、こちらを見つめながら答えた。
「それならいいわよ」
「本当か?」
「えぇ、その代わりと言っては何だけど……」
「何だ? 言ってみろ」
「私と結婚してください」……一瞬何を言われたのか分からなかった。結婚? 誰が誰と?
「はぁ!?」思わず声を上げてしまった。
「ちょ、ちょっと待て! 今の話の流れでどうしてそうなる!?」
「あら? 嫌なの? 私は別に構わないけれど」
「ぐぬぅ……!」正直断りたかった。しかし、ここで断ったらまた変な事をされかねない。それに、今の会話の中で1つだけ気になる点があった。
「……ちなみに、もし俺が断らなかった場合はどうするつもりなんだ?」
「もちろん、そのまま婚約破棄してもらって構わなかったわよ。まぁ、その場合はこの国を出て行くつもりだったけどね」……そういえば、彼女は昔から思い立ったら即行動するタイプだったか。
「……わかった、その提案を受け入れよう」
「ありがとうクレイ♪ これからよろしくね!……それと、もうすぐ学園を卒業するから結婚式も早めに挙げましょうね♡」
こうして、俺は半ば強引に彼女に迫られ、最終的には受け入れてしまう事になったのだ。
俺――クレイ・フォーサイトは、婚約者であるアネモネ王女ことアニーに向けてそう告げたのだ。
しかし、当の本人はキョトンとした表情を浮かべているだけ。
「……え?」
そして、そんな間の抜けた声が彼女の口から漏れる。俺は構わず続けた。
「君は今まで何度も問題を起こしてきただろう? 先日も廊下を走ったりして、他の生徒達から苦情が殺到していたじゃないか! しかも、それだけではなくてだな……」
そこで一旦言葉を切り、深呼吸をして気持ちを整えると、再び口を開いた。
「この前なんて、中庭の花壇を踏み荒らしたりしていたらしいじゃないか!」
「あー……あれね。うん、確かにやったわよ」
彼女は悪びれる様子もなく平然と答える。その態度に思わずイラッときてしまう。
「ほら見ろ! やっぱりお前が悪いんじゃないか!!」
「いやぁ、ごめんなさいね。でも、花壇の管理をしている人がちゃんとお手入れしているか気になったし、それにあの時はまだお昼休み中だったじゃない? だから急いでいたのよね」
「何だと!?……という事は、他にも色々とやってそうだな」
「ん~まぁ、細かい事も含めれば結構あると思うけどね。例えば、授業中に居眠りした男子生徒に対してチョークを投げ飛ばしたりとかね」
「なんだって!?……ちょっと待ってくれ。まさかとは思うが、その時に投げつけたチョークというのは……」
「私だけど何か?」
アニーはそれがどうしたという感じで、さも当然のように言い放った。
「お前の仕業なのか!! 一体どういうつもりだっ!!!」
あまりの事に我慢できず、つい怒鳴ってしまった。しかし、それでも彼女は涼しい顔を崩さない。
「だって、居眠っていた方が悪いんでしょ? なら仕方ないじゃない」
「仕方なくはないぞ! そもそも、教師でもないお前が何故授業中の教室に入る事ができるんだ! それにチョークを投げつけるのはやり過ぎだろう!!」
「そこはほら、何とか誤魔化して入り込んだわけだし、投げつける方は加減したから大丈夫だよ」
「そういう問題ではないだろ! 大体、どうしてそこまでするんだよ!?」
「そりゃあ、先生達が怒ると面倒くさいからだもの。ただでさえ最近うるさくなってきているっていうのに」……なんという奴だ。呆れてものも言えない。
「とにかく、今回の件については反省してもらうぞ!」
これ以上話しても無駄だと思い、一方的に話を終わらせようとしたのだが……。
「うーん、それは無理かな」
「何だと!?……ふむ、一応理由を聞いてやる」
「だって、私の行動を制限する権利が貴方にあるのかしら?」
「…………」
それを言われてしまうと何も言えなかった。
確かに、俺は彼女の婚約者であって保護者ではないし、ましてや王族ですらないので命令権など持ち合わせていないのだ。……だが、このまま引き下がる訳にはいかない。
「……分かった。では、こうしようではないか。今後一切の問題行為は起こさず、大人しくする事を誓え」
すると、アニーは少し考える素振りを見せた後、こちらを見つめながら答えた。
「それならいいわよ」
「本当か?」
「えぇ、その代わりと言っては何だけど……」
「何だ? 言ってみろ」
「私と結婚してください」……一瞬何を言われたのか分からなかった。結婚? 誰が誰と?
「はぁ!?」思わず声を上げてしまった。
「ちょ、ちょっと待て! 今の話の流れでどうしてそうなる!?」
「あら? 嫌なの? 私は別に構わないけれど」
「ぐぬぅ……!」正直断りたかった。しかし、ここで断ったらまた変な事をされかねない。それに、今の会話の中で1つだけ気になる点があった。
「……ちなみに、もし俺が断らなかった場合はどうするつもりなんだ?」
「もちろん、そのまま婚約破棄してもらって構わなかったわよ。まぁ、その場合はこの国を出て行くつもりだったけどね」……そういえば、彼女は昔から思い立ったら即行動するタイプだったか。
「……わかった、その提案を受け入れよう」
「ありがとうクレイ♪ これからよろしくね!……それと、もうすぐ学園を卒業するから結婚式も早めに挙げましょうね♡」
こうして、俺は半ば強引に彼女に迫られ、最終的には受け入れてしまう事になったのだ。
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