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その7
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正午を迎える頃になって、隆司はようやく目を覚ました。
「お目覚めですか?」
看護師は隆司に問うた。
「あれ、検査はもう終わったんですか?」
「隆司君がぐっすり眠っている間に、終わりましたよ。先生が二人で話をしたいそうだから、呼んでくるわね」
看護師は医者を呼んできた。
「やあ、隆司君。気分はいいかな?」
「はい、大丈夫です。あの、検査はもう終わったんですか?」
「もちろんさ。おかげですぐに終わったよ。さて、頑張った隆司君にご褒美を上げようと思うんだが……どうかね、僕と一緒に昼飯を食べないか?」
ちょうど腹がへった頃だった。医者の提案を隆司は快く受け入れた。
「移動はとりあえず車いすの方がいいな。持ってきてくれるかい?」
「もう準備できてますよ」
相違って、看護師は部屋の外にあらかじめ準備しておいた車いすを部屋の中にいれた。
「相変わらず仕事が早いね。さあ、隆司君。起き上がって、車いすに乗れるかな?」
「大丈夫です……」
車いすに乗るのは初めてだった。検査後で念のため、と医者は言った。だが、実際に乗ってみると、自分は本当に病気で入院しているんだ、と感じた。
職員用の食堂に到着して、医者は、
「何か食べたいものはあるかな?」
と質問した。
「そうだな……カレーライスはありますか?」
「あるよ。それだけで大丈夫?」
「はい。ああ、できれば大盛りでお願いします」
「了解。それじゃ僕は……焼きそばにするかな」
二人分の食事を注文した医者は、眺めのいいテーブルの端っこまで隆司の車いすを押した。
「この景色が一番好きなんだ」
医者はそう言って、出来上がった食事を運んだ。
「さあ、食べようか」
隆司はこくりと頷いて、カレーライスを食べ始めた。口の中で味わったのは久しぶりだと思った。特別美味しいというわけではない。普通に美味しかった。何事も普通でよかった。
「美味しいです。食べられてよかった」
「そうか、良かったね」
医者もにこやかに焼きそばを食べていた。
「それはそうと……お腹の痛みは治ったかな?」
「ああ、そう言われてみれば……今はすっきりしてますね。下剤、でしたっけ、検査の前に飲んだやつ。あれですっきりしたんですよ。ひょっとして、あれが原因だったのかな?」
「ああ、どうもそうみたいだ。便秘って言うんだけどね、うんちがお腹の中に溜まって、その量が増えると痛くなるんだ。そして、僕が今日検査したのは、その原因を調べるためだったんだ……」
医者の語りのボルテージが、ほんの微かに下がり始めた。隆司は察知した。
「先生?ひょっとして、何か悪いところでもあったの?」
「ええっ?いや、そんなことはないと思うよ。うん、今の段階ではまだ分からないね……」
大人の話しぶりを聞き分けるのが、隆司は得意だった。それに、いくら子供とはいっても、ただ検査を行っただけなのに、その後ご褒美を上げるというのは、中学生に対する対応としては普通じゃないと思った。
「先生、はっきり言ってくださいよ。何か悪い物があったのでしょう?先生のしていることは、普通じゃないです。そんなことくらい、僕だって分かりますよ?」
「…………………………」
医者は言葉を発しなくなった。隆司はそんな医者にある種の苛立ちを覚えた。
「先生!隠さないでください!何が起きているのですか!ねえ!」
隆司が叫ぶので、医者は我に返った。
「詳しい結果はまだ出ていないんだけど……あれはね、きっと癌なんだ……」
癌、と聞いて、隆司には思い当たる節があった。父の勝美だった。
「ひょっとして……それは大腸癌って言うんですか?」
医者は目を丸くした。
「僕のお父さんはそれで死んじゃったから、ひょっとしたら僕もそうなのかなって思ったんです」
隆司の話を聞いて、医者は腑に落ちた。
家族性大腸癌……医者の頭には、ストーリーが完成した。
「お目覚めですか?」
看護師は隆司に問うた。
「あれ、検査はもう終わったんですか?」
「隆司君がぐっすり眠っている間に、終わりましたよ。先生が二人で話をしたいそうだから、呼んでくるわね」
看護師は医者を呼んできた。
「やあ、隆司君。気分はいいかな?」
「はい、大丈夫です。あの、検査はもう終わったんですか?」
「もちろんさ。おかげですぐに終わったよ。さて、頑張った隆司君にご褒美を上げようと思うんだが……どうかね、僕と一緒に昼飯を食べないか?」
ちょうど腹がへった頃だった。医者の提案を隆司は快く受け入れた。
「移動はとりあえず車いすの方がいいな。持ってきてくれるかい?」
「もう準備できてますよ」
相違って、看護師は部屋の外にあらかじめ準備しておいた車いすを部屋の中にいれた。
「相変わらず仕事が早いね。さあ、隆司君。起き上がって、車いすに乗れるかな?」
「大丈夫です……」
車いすに乗るのは初めてだった。検査後で念のため、と医者は言った。だが、実際に乗ってみると、自分は本当に病気で入院しているんだ、と感じた。
職員用の食堂に到着して、医者は、
「何か食べたいものはあるかな?」
と質問した。
「そうだな……カレーライスはありますか?」
「あるよ。それだけで大丈夫?」
「はい。ああ、できれば大盛りでお願いします」
「了解。それじゃ僕は……焼きそばにするかな」
二人分の食事を注文した医者は、眺めのいいテーブルの端っこまで隆司の車いすを押した。
「この景色が一番好きなんだ」
医者はそう言って、出来上がった食事を運んだ。
「さあ、食べようか」
隆司はこくりと頷いて、カレーライスを食べ始めた。口の中で味わったのは久しぶりだと思った。特別美味しいというわけではない。普通に美味しかった。何事も普通でよかった。
「美味しいです。食べられてよかった」
「そうか、良かったね」
医者もにこやかに焼きそばを食べていた。
「それはそうと……お腹の痛みは治ったかな?」
「ああ、そう言われてみれば……今はすっきりしてますね。下剤、でしたっけ、検査の前に飲んだやつ。あれですっきりしたんですよ。ひょっとして、あれが原因だったのかな?」
「ああ、どうもそうみたいだ。便秘って言うんだけどね、うんちがお腹の中に溜まって、その量が増えると痛くなるんだ。そして、僕が今日検査したのは、その原因を調べるためだったんだ……」
医者の語りのボルテージが、ほんの微かに下がり始めた。隆司は察知した。
「先生?ひょっとして、何か悪いところでもあったの?」
「ええっ?いや、そんなことはないと思うよ。うん、今の段階ではまだ分からないね……」
大人の話しぶりを聞き分けるのが、隆司は得意だった。それに、いくら子供とはいっても、ただ検査を行っただけなのに、その後ご褒美を上げるというのは、中学生に対する対応としては普通じゃないと思った。
「先生、はっきり言ってくださいよ。何か悪い物があったのでしょう?先生のしていることは、普通じゃないです。そんなことくらい、僕だって分かりますよ?」
「…………………………」
医者は言葉を発しなくなった。隆司はそんな医者にある種の苛立ちを覚えた。
「先生!隠さないでください!何が起きているのですか!ねえ!」
隆司が叫ぶので、医者は我に返った。
「詳しい結果はまだ出ていないんだけど……あれはね、きっと癌なんだ……」
癌、と聞いて、隆司には思い当たる節があった。父の勝美だった。
「ひょっとして……それは大腸癌って言うんですか?」
医者は目を丸くした。
「僕のお父さんはそれで死んじゃったから、ひょっとしたら僕もそうなのかなって思ったんです」
隆司の話を聞いて、医者は腑に落ちた。
家族性大腸癌……医者の頭には、ストーリーが完成した。
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