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その6
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ゲームのない夜と言うのが、これほど平凡で、逆に言えばつまらないということを、隆司は身に染みて感じていた。天井を見上げて、時々壁を見て……何をしても眠くならなかった。
時計を確認すると、午前2時を過ぎていた。本来ならば、ゲームが一番の盛り上がりに差し掛かる頃合いだった。隆司は無意識に指を動かしていた。画面がなくても感覚で覚えている。遥か彼方に広がる水平線の向こうを目指して、鳥の何倍も速いスピードで駆け抜ける。敵がやって来ても怖がることはない。スペックをもってすれば、楽勝である。飛行を1時間も続ければ、間もなく敵の本陣が見えてくる。そのまま急降下して、攻撃を加える。自分が一番になる……その思いは人一倍強い。勝利を手にした隆司は、みんなにもてはやされ、ヒーローになる。
仮想世界に一度足を踏み入れただけで、これくらいのことは大方適ってしまう。だからこそ、止められない。隆司は身体が疼いて、余計に眠れなかった。耳が研ぎ澄まされて、時計の秒針の刻みが喧しかった。何度も何度も身体を起こして時計を見直すと、時間は案外速く過ぎていった。気が付くと、4時をまわっていて、カーテン越しに臨む空は、薄っすらと赤ずんできた。
「はあ、一晩無駄にしちゃったよ……」
隆司はそう呟いた。しかし、必ずしも全てが悪いというわけではなかった。確かに検査は億劫だが、入院している限り、学校に行く必要がない。別に、学校に行くのがいや、と言うほどではないが、正直めんどくさいと思った。言い訳せずに学校を休めるのならば、それは好都合だった。
「復帰した時のために、戦略でも考えておくか……」
ゲームのことを考え出すと、一晩ほとんど眠っていなかったせいか、瞼が段々と重くなっていった。大きな欠伸を五分おきに浮かべた。意図せずして、隆司は短い眠りについた。
暫く眠っていた隆司を呼び起こしたのは、看護師だった。
「赤田さん。おはようございます。朝ですよ、起きてください!」
隆司は中々目を覚まさなかった。何度も何度も呼び掛けて、ようやく目を覚ました。
「やっと目が覚めましたか?さあ、これから検査に行きますよ」
時計が8時を指していた。
「あれ、もうそんな時間ですか?おかしいな」
隆司は、自分が寝入ってしまって、まだ現実と夢の境界がはっきりしなかった。
「検査は8時半に始まります。その前に着替えとか、済ませちゃってくださいね」
「はーい、分かりました」
隆司はそう言って、看護師が用意した検査着に着替えた。
「ああ、眠くてしょうがないや。そう言えば、ゲームは上手くいっているだろうか?もう終わったか……。早く退院できないかな?」
看護師に導かれて、隆司は検査室に向かった。
「おはよう、隆司君。昨日はよく眠れたかな?」
昨日の医者が既に待っていた。
「それが、あんまり眠れなくて、いまとっても眠いんです。先生、検査中は眠っていても大丈夫ですか?」
「ああ、もちろん大丈夫だよ。さてと、とりあえず、診察室のベッドに寝っ転がってくれるかな?」
隆司は医者の指示通り、寝っ転がった。部屋のベッドよりも固く、寝られるか心配だった。
「それじゃ、準備するからね。ああ、朝食は食べていないね?」
「はい、食べてません」
それだけ確認して、医者は一度部屋から出ていった。付き添いの看護師が、何やら器具の準備を始めた。病院特有とでも言うべき消毒の匂いが鼻に突き刺さったところで、意識が段々と薄れていった。後に、隆司はあの消毒液が自分にとっては麻酔だった、と振り返るほどだった。
「あれ?もう寝ちゃったのか?早いなあ」
医者も驚いていた。
「子供は検査が怖くて寝られないんですよ」
「そうかもしれないな。でも、この方が楽でいいや」
医者はそう言って、隆司の肛門周囲を一度観察し、カメラを大腸に挿入していった。
「これは……すぐに帰すわけにはいかないな……」
あれほどにこやかだった医者の顔が急に険しくなった。30分ほどの検査を終えて、医者は採取した組織の検査をオーダーした。
「ああ、隆司君が目を覚ましたら、僕を呼んでくれないか?少し話したいことがあるんだ」
「分かりました。お母さんはどうしますか?」
「そうだね、午後になったら説明するけど、とりあえず、二人で話がしたいから、お母さんを呼ぶのは少し待ってくれないかな?」
「分かりました」
医者は、
「ありがとう」
と言い残して、検査室を出ていった。看護師は、隆司が目を覚ますまで待っていた。
時計を確認すると、午前2時を過ぎていた。本来ならば、ゲームが一番の盛り上がりに差し掛かる頃合いだった。隆司は無意識に指を動かしていた。画面がなくても感覚で覚えている。遥か彼方に広がる水平線の向こうを目指して、鳥の何倍も速いスピードで駆け抜ける。敵がやって来ても怖がることはない。スペックをもってすれば、楽勝である。飛行を1時間も続ければ、間もなく敵の本陣が見えてくる。そのまま急降下して、攻撃を加える。自分が一番になる……その思いは人一倍強い。勝利を手にした隆司は、みんなにもてはやされ、ヒーローになる。
仮想世界に一度足を踏み入れただけで、これくらいのことは大方適ってしまう。だからこそ、止められない。隆司は身体が疼いて、余計に眠れなかった。耳が研ぎ澄まされて、時計の秒針の刻みが喧しかった。何度も何度も身体を起こして時計を見直すと、時間は案外速く過ぎていった。気が付くと、4時をまわっていて、カーテン越しに臨む空は、薄っすらと赤ずんできた。
「はあ、一晩無駄にしちゃったよ……」
隆司はそう呟いた。しかし、必ずしも全てが悪いというわけではなかった。確かに検査は億劫だが、入院している限り、学校に行く必要がない。別に、学校に行くのがいや、と言うほどではないが、正直めんどくさいと思った。言い訳せずに学校を休めるのならば、それは好都合だった。
「復帰した時のために、戦略でも考えておくか……」
ゲームのことを考え出すと、一晩ほとんど眠っていなかったせいか、瞼が段々と重くなっていった。大きな欠伸を五分おきに浮かべた。意図せずして、隆司は短い眠りについた。
暫く眠っていた隆司を呼び起こしたのは、看護師だった。
「赤田さん。おはようございます。朝ですよ、起きてください!」
隆司は中々目を覚まさなかった。何度も何度も呼び掛けて、ようやく目を覚ました。
「やっと目が覚めましたか?さあ、これから検査に行きますよ」
時計が8時を指していた。
「あれ、もうそんな時間ですか?おかしいな」
隆司は、自分が寝入ってしまって、まだ現実と夢の境界がはっきりしなかった。
「検査は8時半に始まります。その前に着替えとか、済ませちゃってくださいね」
「はーい、分かりました」
隆司はそう言って、看護師が用意した検査着に着替えた。
「ああ、眠くてしょうがないや。そう言えば、ゲームは上手くいっているだろうか?もう終わったか……。早く退院できないかな?」
看護師に導かれて、隆司は検査室に向かった。
「おはよう、隆司君。昨日はよく眠れたかな?」
昨日の医者が既に待っていた。
「それが、あんまり眠れなくて、いまとっても眠いんです。先生、検査中は眠っていても大丈夫ですか?」
「ああ、もちろん大丈夫だよ。さてと、とりあえず、診察室のベッドに寝っ転がってくれるかな?」
隆司は医者の指示通り、寝っ転がった。部屋のベッドよりも固く、寝られるか心配だった。
「それじゃ、準備するからね。ああ、朝食は食べていないね?」
「はい、食べてません」
それだけ確認して、医者は一度部屋から出ていった。付き添いの看護師が、何やら器具の準備を始めた。病院特有とでも言うべき消毒の匂いが鼻に突き刺さったところで、意識が段々と薄れていった。後に、隆司はあの消毒液が自分にとっては麻酔だった、と振り返るほどだった。
「あれ?もう寝ちゃったのか?早いなあ」
医者も驚いていた。
「子供は検査が怖くて寝られないんですよ」
「そうかもしれないな。でも、この方が楽でいいや」
医者はそう言って、隆司の肛門周囲を一度観察し、カメラを大腸に挿入していった。
「これは……すぐに帰すわけにはいかないな……」
あれほどにこやかだった医者の顔が急に険しくなった。30分ほどの検査を終えて、医者は採取した組織の検査をオーダーした。
「ああ、隆司君が目を覚ましたら、僕を呼んでくれないか?少し話したいことがあるんだ」
「分かりました。お母さんはどうしますか?」
「そうだね、午後になったら説明するけど、とりあえず、二人で話がしたいから、お母さんを呼ぶのは少し待ってくれないかな?」
「分かりました」
医者は、
「ありがとう」
と言い残して、検査室を出ていった。看護師は、隆司が目を覚ますまで待っていた。
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