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「ミクリッツ様……あなた様もまだ捨てたものではないってことですね……」

「おいおい……ルミナ。こんなこともあるんだな……」

「ええ、不思議な巡りあわせですね。そして……ここまで窮地に陥ってしまったミクリッツ様を救ってくださるのが、他でもない初恋の人だったなんて……」

「恥ずかしいから、その話はよそうや……」

あの時のミクリッツ様と変わらなかった。もちろん、お互い年をとった。でも、この話し方はミクリッツ様そのものだった。私は最初、ミクリッツ様と顔を合わせることができなかった。恥ずかしさというより、あの時理由も告げずに姿を消したミクリッツ様に対して、もどかしさやある種の怒りをぶつけたいと思ったからだ。

「でもね、ミクリッツ様の口から……カレン様に呼び掛けませんと、カレン様はきっと力になってくださらないんじゃないですか???」

「やれやれ……それは面倒だな……」

「ミクリッツ様???女性に面倒なんて言ってはダメですよ。そんなことを言ったら……本当にカレン様はお力になってくださらないですよ???」

「まあ、それでも仕方ないだろうさ……。そこのお嬢さんはもう……私のことを忘れているだろうからな……」

そんなことはない……私はこう言いたかった。言いたかったけど、伝えることができなかった。

「まあ、お嬢さんに助けてもらうくらいじゃ、私は本当にこれ以上生きる意味がないってことだろうさ。だとしたら、もうこのまま死んでしまってもいいと思うのさ……」

そうやってまた勝手なことを……私は声を大にして言いたかった。でも、何を言っても、いまさらミクリッツ様の心には届かない気がした。そもそも……あの時私を愛してくれたミクリッツ様なのか???本当に私のことを憶えているのか???私のことを愛してくれた……あの日のことを。

「もう終わりか……」

「ミクリッツ様。本当によろしいのですか???」

「ああ、でもな、最後にお嬢さんの涙の理由を知りたい。それがもしも……あの時のことを憶えているからってことだったら……私は責任を取らなくてはならないからな……」

涙……なんでか気付かないうちに、私はこっそり泣いていたのだ。悲しい……どうしても悲しい。ミクリッツ様がどんなにひどいことを言っても……その全てを本気で愛してしまった私が……あの頃の私が一番輝いていたのだ。どうして愛したのか……どうして、ミクリッツ様は私のことを愛してくれたのか???

そんな問いはどうだっていいんだ。私はミクリッツ様のことを愛している。それだけで十分なのだ。

「ミクリッツ様……私はあの時のカレンです……」

私は一言だけ告げた。

「カレン……そうか、やっぱりあの時のカレンなのか……」

ようやく、ミクリッツ様と直接話をすることができた。私はそれで嬉しくなった。

「やれやれ……」

私たちの間を取り持ってくれたルミナがほっと胸をなでおろすのだった。
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