拝啓～私に婚約破棄を宣告した公爵様へ～

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名ばかりの統治者……やることはない。統治者のために与えられた屋敷……まあ、これほど辺鄙な場所としては、豪勢な屋敷と言えようが、そこで朝から晩まで過ごすだけ。因みに犯罪者の町だから、あまりにも治安が悪すぎて襲撃される恐れがあるとのことで、この地域には屈強な軍人たちが配備されている。この屋敷も彼らの手によって守られているわけなのだ。

そして、私の面倒を見てくれる執事や侍女が数名いる。この様子だったら、確かにここで死ぬまで生活するのも悪くはないと思った。

「おはようございます。カレン様。こちらにサインをお願い致します……」

名ばかりの統治者である私に与えられたたった一つの仕事……それは、殺人など重大な犯罪を犯した囚人で更生の見込みがないと思われる者の死刑執行書にサインをすることだった。毎日必ず一枚はサインをすることになる。多い日は五枚くらい。私がサインをすれば、その日のうちに死刑が執行されることになる。間接的ではあるが、毎日殺人の許可をしているのだ。まあ、そんな人間が生きている理由なんてないに等しいのだが。

サインをするとき、私は時々ロンメル公爵の顔を思い浮かべる。彼もまた、私にとっては殺人犯と同じくらい重大な罪を犯した者なのだ。彼がこの地に流されてきて……私が彼に制裁を加えられれば、どれほど素晴らしいことだろうか……そんなことを考えながら、今日もまたサインする。

「ありがとうございます。それでは、あと一時間後に執行致します……」

「ええ、ありがとう。よろしくお願いします……」

サインが終わると、仕事はもう終わり。後は何もせずに夜が来るのを待つだけ。夜が来れば眠りにつき、翌日の朝を迎えるだけ。なんとも単調だが、まあ何も考えずに生きているのも悪くないと思った。

考えたところで、いまさら何も変わらないのだから。

「私は悪くないのだ！！！！」

誰かが叫んだ。

「静かにしろ！！！お前は今日死ぬのだ！！！！」

軍人たちが誰かを追いかけているようだった。

「私は悪くない！！！私を悪者にしたのは、この世界だ！！！」

「つべこべ言うな！！！貴様に世界の道理を語る資格などない！！！」

「ふざけるな！！！私は無実だ！！！」

「おい、構わないからこの場で撃ち殺せ！！！」

誰かがそう呟いて、その後に銃声が二発響いた。それから静まり返った。後から聞いたが、この騒ぎは死刑囚の脱走だった。私がサインした囚人……未練があったのか。

未練があっても、運命を変えることはできないのだ。それがこの世界の道理なのだ。