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その12

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歩けば歩くほど、この町がいかに朽ち果てているのか、よくわかった。私は思わず目を覆いたくなった。聖なる魂を発揮すれば、この惨状を少しは替えられたと思う。でも、むやみやたらと使うわけにはいかなかった。

「見てください。男は女の上にまたがって昼寝をしています。女は男から金を巻き上げると、すぐに酒とたばこを始めるのです。お互いに病を患い、進行すると、歩くこともできず、イモムシのように地面を這いつくばるようになってしまうのです。私も、いずれはそうなるのでしょうね……」

この町の住民に、明るい未来は無かった。

「全てその女の仕業なの?」

男はコクリと頷いた。

「男だけでなく、女をも惑わすのです。男はその魅力に惹かれ、女はその美しさに惹かれるのです。小さな魂が吸い寄せられていくみたいなのです……」

住人たちは、さきほど男がとった態度と似たような恰好だった。

「聖女様……」

皇帝陛下が、私に耳打ちをした。

「これほど朽ちた町の住人たちを、本当に救う意味があるのでしょうか?」

私はこう答えた。

「伯爵からの依頼をむげに断ることはできないでしょう。私だって、困惑していますけれど」

「なんと、そうでしたか!」

私が皇帝陛下と同じように感じたことに感心したのだろうか、皇帝陛下は嬉しそうだった。ようやく互いの意志が通じた、とでも思ったのだろうか?

「ならば、早くこの地を去りましょう!例え、病気の伯爵をお救いいたしたところで、何かが変わるということはありません。そんな無意味なことに時間を割いても、仕方がないのでございます!」

皇帝陛下の言うことには一理あると思った。聖女がこの世界を神に代わって守る責務を負っている以上、時には不要な成分をカットする勇気も必要だろう。

でも、私にはその勇気が無かった。例え、どんな結果になろうとも、なるべくたくさんの人を救う方法を考えるのが聖女としての役割だと自負していた。

男に先導されて歩くこと、およそ十分。私たちは、カーティス伯爵のいる城に到着した。

「本当に城なのか?廃墟じゃないのか?」

皇帝陛下の本音が思わず漏れた。私もそうだと思った。見ているタイミングでも、上から小さなレンガが大きな音を立てて落ちてくる。この城が完全に崩壊するまで、もう何日もないだろう、と思わせるみすぼらしさ。汚いと一言発したくなるような城壁。どう見ても、この町が末期であることを物語っていた。

「これから、伯爵の部屋にご案内いたします……」

男は慎重に、城の入り口を開けた。力づくで開けたり、息を吹きかけたりすると、それだけで壊れてしまいそうだった。

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