8 / 26
その8
しおりを挟む
一週間の旅を終えて、私たちは無事に目的地アガンツへたどり着いた。標高が高く、天がもう少しで手に届きそうだった。ひょっとしたら、私を聖女にした神と対話することができるかも、なんて思ってみた。
アガンツは私が想像していたほど美しい町ではなかった。確かに一面が氷で覆われた世界である。王都での生活に慣れている皇帝陛下や軍人たちは、寒さに耐えられないのか、しきりにくしゃみをしていた。
「少し温めましょうか?」
私はそう言って、聖なる魂を用いた。あらゆる環境に適応する能力を使って、彼らが例え軽装であったとしても、寒さを感じないようにした。
「聖女様!おかげで温かくなりました!ありがとうございます!」
兵と言えども、寒さには勝てない。油断をすれば命とりになる。だから、私は今回も命の恩人になったわけだ。
「さて、まずはカーティス伯爵を探すことにしましょうか?」
私は、カーティス伯爵が残した書物を、予め侍従たちから受け取っていた。文章の内容を吟味して、その人物像を作り上げる。お粗末に思えるかもしれないが、意外と当たる。見当がつけば、後は出会った顔と見比べて判別する。まあ、本当は町の人に聞き込みするのが一番早いんだけど、他の地方から来た人間とすぐに打ち解けることは難しいから。時間がかかるので、私の能力で解決しようとするの。
「聖女様……おおよその見当はつきましたか?」
「そうね……たぶん、わかったわ。とりあえず歩いてみましょう」
カーティス伯爵の元にたどり着くのが、旅のゴールである。これは第二の局面だった。これからの方が難しいんだけど。
町を歩いていると、今まで立ち寄ったところと比較して、荒廃しているような感じがした。ある意味、人間的な匂いがした。町を守るはずの屈強な男たちが、道端に寝っ転がって酒を飲んでいた。私たちが通ると、
「おーい、そこのお嬢さんたち!俺たちと遊ばないか!」
なんて、声をかけてきた。これに、軍人たちがすぐさま反応した。
「貴様たち!」
二人はそう叫んで、ピストルを構え始めた。
「こちらにいらっしゃるお二方をどなたと心得ているんだ!」
私はすぐさま二人を制止した。私や皇帝に対する忠誠心は高く評価するが、いちいち騒動を起こしては、後々めんどくさくなるのだ。皇帝陛下はいざ知らず、私は多少侮辱されたとしてもすぐには怒らない。慣れているのだ。
半永久的に裏舞台に立ち続ければ、誰でもそうなる。だから、いくら私が皇帝陛下より偉くなったとしても、己惚れることはない。戦うのは自分の生命が危なくなったとき、とプログラムされている。
私は男たちの元に近づいた。
「聖女様!お待ちください!」
またしても、皇帝陛下の制止を振り切った。
アガンツは私が想像していたほど美しい町ではなかった。確かに一面が氷で覆われた世界である。王都での生活に慣れている皇帝陛下や軍人たちは、寒さに耐えられないのか、しきりにくしゃみをしていた。
「少し温めましょうか?」
私はそう言って、聖なる魂を用いた。あらゆる環境に適応する能力を使って、彼らが例え軽装であったとしても、寒さを感じないようにした。
「聖女様!おかげで温かくなりました!ありがとうございます!」
兵と言えども、寒さには勝てない。油断をすれば命とりになる。だから、私は今回も命の恩人になったわけだ。
「さて、まずはカーティス伯爵を探すことにしましょうか?」
私は、カーティス伯爵が残した書物を、予め侍従たちから受け取っていた。文章の内容を吟味して、その人物像を作り上げる。お粗末に思えるかもしれないが、意外と当たる。見当がつけば、後は出会った顔と見比べて判別する。まあ、本当は町の人に聞き込みするのが一番早いんだけど、他の地方から来た人間とすぐに打ち解けることは難しいから。時間がかかるので、私の能力で解決しようとするの。
「聖女様……おおよその見当はつきましたか?」
「そうね……たぶん、わかったわ。とりあえず歩いてみましょう」
カーティス伯爵の元にたどり着くのが、旅のゴールである。これは第二の局面だった。これからの方が難しいんだけど。
町を歩いていると、今まで立ち寄ったところと比較して、荒廃しているような感じがした。ある意味、人間的な匂いがした。町を守るはずの屈強な男たちが、道端に寝っ転がって酒を飲んでいた。私たちが通ると、
「おーい、そこのお嬢さんたち!俺たちと遊ばないか!」
なんて、声をかけてきた。これに、軍人たちがすぐさま反応した。
「貴様たち!」
二人はそう叫んで、ピストルを構え始めた。
「こちらにいらっしゃるお二方をどなたと心得ているんだ!」
私はすぐさま二人を制止した。私や皇帝に対する忠誠心は高く評価するが、いちいち騒動を起こしては、後々めんどくさくなるのだ。皇帝陛下はいざ知らず、私は多少侮辱されたとしてもすぐには怒らない。慣れているのだ。
半永久的に裏舞台に立ち続ければ、誰でもそうなる。だから、いくら私が皇帝陛下より偉くなったとしても、己惚れることはない。戦うのは自分の生命が危なくなったとき、とプログラムされている。
私は男たちの元に近づいた。
「聖女様!お待ちください!」
またしても、皇帝陛下の制止を振り切った。
13
お気に入りに追加
1,195
あなたにおすすめの小説
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
【完結】小国の王太子に捨てられたけど、大国の王太子に溺愛されています。え?私って聖女なの?
如月ぐるぐる
恋愛
王太子との婚約を一方的に破棄され、王太子は伯爵令嬢マーテリーと婚約してしまう。
留学から帰ってきたマーテリーはすっかりあか抜けており、王太子はマーテリーに夢中。
政略結婚と割り切っていたが納得いかず、必死に説得するも、ありもしない罪をかぶせられ国外追放になる。
家族にも見捨てられ、頼れる人が居ない。
「こんな国、もう知らない!」
そんなある日、とある街で子供が怪我をしたため、術を使って治療を施す。
アトリアは弱いながらも治癒の力がある。
子供の怪我の治癒をした時、ある男性に目撃されて旅に付いて来てしまう。
それ以降も街で見かけた体調の悪い人を治癒の力で回復したが、気が付くとさっきの男性がずっとそばに付いて来る。
「ぜひ我が国へ来てほしい」
男性から誘いを受け、行く当てもないため付いて行く。が、着いた先は祖国ヴァルプールとは比較にならない大国メジェンヌ……の王城。
「……ん!?」
【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。
私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果
柚木ゆず
恋愛
※4月27日、本編完結いたしました。明日28日より、番外編を投稿させていただきます。
姉マリエットの宝物を奪うことを悦びにしている、妹のミレーヌ。2人の両親はミレーヌを溺愛しているため咎められることはなく、マリエットはいつもそんなミレーヌに怯えていました。
ですが、ある日。とある出来事によってマリエットがミレーヌに宝物を全てあげると決めたことにより、2人の人生は大きく変わってゆくのでした。
王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……
水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。
相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。
思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。
しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。
それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。
彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。
それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。
私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。
でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。
しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。
一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。
すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。
しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。
彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる