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その3

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聖女騒動がひと段落して、私はとりあえず、皇帝陛下の招きに応じて入城を果たした。数知れない人間が、先導する皇帝陛下と私に尊崇の念をはらっていることがわかった。聖女だから何かをしなくてはならない、と決まっているわけではない。ただ、慣例として、王家や貴族の人間が病におかされたとき、必要とあらば生きながらえる方策をとることがあった。

無暗に行使するのはいけない。状況に応じて判断する。でも、いまはとりあえず必要がないみたいだ。私は皇帝陛下の住まいに一度お邪魔し、この城について一通りの説明を受けた。

その後、私が住まう部屋に通された。そこで、私は一瞬言葉を失った。

「皇帝陛下……少し大きすぎませんか?」

思わずそう言ってしまった。皇帝陛下の住まいも、一人で住むには大きすぎると感じていたが、その10倍は広いと思った。

「お気に召しませんか?」

皇帝陛下は、少し困ったようだった。

「いいえ、そんなことはないのですが、もう少し小さなお部屋がいいかな、と思いまして……」

この部屋はともかくとして、私は小さな部屋での生活に慣れていた。ジューンが表舞台を独り占めしていたのは、私の家でも同じことだった。思い返せば、お父様、お母様は、意図的に私のことを差別していたようにも感じる。私の部屋は小さかった。本当は、ジューンが使っていた部屋なのだ。でも、配置換えになった。

私は基本家でも一人ぼっちだった。だから、こじんまりとした部屋でハムスターのようにくるくると丸まっている方が性に合っていた。

「承知いたしました。すぐに小さな部屋をご用意致します」

皇帝陛下は、私のワガママをなんでも素直に聞いてくれると思った。ジューンの一件はともかく、今回の話は、自分でもワガママだと思った。皇帝陛下がこの日のために準備したわけだろう?聖女を迎え入れる日のために……。


ジューンはここで皇帝陛下と寝たのか?そう言えば、どこからかジューンの香がするような……。

「ねえ、皇帝陛下?あなたはここでジューンと寝たのですか?」

衝動的に確かめたくなった。皇帝陛下は、酔っ払いのように顔を赤くして、

「何のことですか!」

と動揺した。私は、なんとなく察した。人には暴かれたくない過去がある。彼なりの心の傷なのだろう。だから、そっとしておこうと思った。

「とりあえず、ここにいますよ。ああ、ほら、侍従の方が外で待っていますよ。どうぞ、お入りなさい」

聖女の特技として、人の気配を感じることができる。直接見えなくても、ある程度は見えてしまうというわけだ。

「失礼致します!!!」

侍従が丁重な挨拶をして入ってきた。

「ご用件は何かしら?」

私がこう尋ねると、侍従がたくさんの手紙を披露し始めた。

「恐れながら、聖女様に対します嘆願書にございます!」

嘆願書と聞いて、私はもう仕事を始めなくてはならないのか、と思った。宛先には、様々な貴族の名前が書かれていた。

「みな、聖女様の聖なる魂を欲しているのでございます!」

言いたいことはよくわかった。私に頼んで、私が許可を出せば、少しは生きながらえることができる。だから、当然なのだけど……。


今日は疲れたから、とりあえず寝かしてくれ!

みたいな気分だから、

「明日からでもいいかしら?」

と答えた。

「承知致しました!」

侍従はそう言って、手紙だけ置いて出て行った。

「皇帝陛下、とりあえず少し休んでもいいですか?意外にも体力の消耗が速いみたいなので……。ああ、手紙の管理を任せてもよろしいかしら?」

「承知致しました」

後はとりあえず任せて私は寝ることに。お休みなさい……。
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