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その1
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この世界には100年に一度不思議なことが起きる。数多存在する令嬢の中でたった一人だけ選ばれることになる聖女。他の人間とは異なり、聖なる魂を持つとされる。聖女に認定された令嬢は、無条件で時の皇帝と婚約することができる。なぜならば、歴史上、聖女は神と人間の中間に位置すると考えられているからだ。
聖女は言わば、神と、その子孫の橋渡しをする存在なのだ。
私はいま、皇帝陛下と令嬢ジューン・バレットの婚約式に参列している。ちなみに、ジューンは私の妹である。
どうして、私が妹の婚約式に参加しているのかって?家族だから当然である。本来、私が婚約するはずだったのに、皇帝陛下は妹のジューンを選ぶことになった。それは、ジューンが、自らを聖女だと名乗ったからである。
聖女かどうか、客観的に区別する方法は今のところ一つしかない。それは一種の儀式である。古くより伝わる王家の秘宝、命を司るとされる小刀を用いる。小刀を自分の胸に突き刺す。凡人であれば、そのまま死んでしまうが、聖女には効果がない。つまり、いくら心臓を突き刺したとしても、正確には一度死ぬことになるのだが、復活するのだ。
聖女の寿命はぴったり100年と決まっている。その間は絶対に死なない。逆に言うと、寿命を迎えれば必ず死に、聖女は新しい令嬢に引き継がれることになるのだ。
このように確かめる方法はあるのだが、方法が残忍であるため、最近、この儀式が行われることはなくなった。では、どのように聖女だと推定するのだろうか?それは、産まれた時の様子、幼少期の発達などをおおよそ評価する。例えば、聖女は普通の令嬢よりも体の発育が遅い。そして、普通の令嬢よりも容姿が幼い。最後に、人と滅多に話さない。これは、共に神に仕える天使をまねているという噂がある。この3つの条件に、私は当てはまった。故に、お父様はすぐさま王朝に聖女申請を行った。私以外にも当てはまる人間はいるとお思いだろう?しかしながら、3つ目の条件を満たす令嬢は中々いないのである。
王朝から役人が使わされて、私が聖女であると、仮の契約が結ばれることになった。従って、私は産まれた時から、時の皇帝陛下と婚約することが運命づけられた。皇帝陛下はときおり、私の家を訪れて、
「いかがお過ごしですか?」
と、私の様子を見舞うことがあった。ちなみに、聖女は皇帝陛下よりも格式が高いので、皇帝陛下の方が、子供である私の前に跪いた。
「この方は誰ですか?」
私は当時、事情がよくわからなかったので、皇帝陛下に随分と無礼を働いた。正式には、家臣のような者なので、別に無礼には当たらないのだが。
私は皇帝陛下と婚約する未来を、なんとなく思い描いていた。夢ではなく、それが現実になることを知っていた。
それなのに……。
突然、妹のジューンが、自分は聖女であると王朝に名乗り出たのだ。王朝は当然却下したのだが、そこに偶然居合わせた皇帝陛下の目に、ジューンが止まってしまったのだ。
そう、だから事故なのである。あのとき、ジューンと皇帝陛下が出会わなければ、今のようにはなっていないのだ。皇帝陛下は、私よりも格段に大人びて美しいジューンに一目ぼれしてしまった。彼女の容姿は抜きんでていて、複数の有力貴族から、婚約を申し込まれていた。だが、ジューンは満足しなかった。あくまでも、皇帝陛下と婚約することだけを考えていた。
そして、それは現実になった。ジューンは私の方を時折、チラチラと振り返って、笑っていた。私は別に、どうしても皇帝陛下と婚約したかったわけではない。しかしながら、聖女という厳正な地位を辱めようとするジューンの行いには我慢できなかった。
噂によれば、ジューンは皇帝陛下と、既に一夜を過ごしてしまったそうだ!別に、聖女が殿方と寝てはいけないという決まりはない。だが……順番というものがあるだろう!
私は段々、ジューンの顔を見ていると、憎たらしくなってきた。皇帝陛下だって、どうして私が聖女かどうか、考えないのだろうか?ジューンの言葉だけを鵜呑みにしてしまうのか?
だから、叫んでやったのさ。
「恐れながら、ジューン・バレットは聖女でないと思います!この際ですから、聖女を確かめる儀式を行うのはいかがでしょうか?」
私がこう言うと、
「お姉様!いきなり何をおっしゃいますの?」
と、ジューンが早速動揺し始めた。
「もとはと言えば、私が聖女候補の筆頭だったわけでございますから!お父様、お母様?そうでしょう?」
二人はあからさまに迷惑そうな顔をした。娘の婚約が台無しになってしまうことを憂えているのだろうか?
だったら、私のことはどうでもいいのか?
私は妹、両親、そして、皇帝陛下に、それぞれ違う憤りをぶつけた。
「さあ、確かめましょうよ!皇帝陛下、王家に伝わる小刀を持ってきてくださいまし!さあ、早く!」
聴衆たちがざわつき始めた。このまま何もなかったことにできるはずもなく、皇帝陛下は小刀を準備した。
「さあ、ジューン!あなたは聖女なのだから、先に試して御覧なさい!!!」
私はジューンに小刀を差し出した。
「おおお…お姉様からどうぞ……」
ジューンは、完全に冷静でいられなかった。
「そう?ならいいわ。皇帝陛下、私に小刀を!」
皇帝陛下の手も震えていた。このまま、私が死んでしまったら、後味が悪いのだろう。だがしかし、聖女と関わるのだから、それくらいの覚悟はないといけない。
「いきますよ!!!」
私は思いっきり、小刀を胸に突き刺した。不思議なことに、一度身体が宙に浮いた心地がした。でもすぐに、戻った。私は死ななかった。
「信じられない!」
皇帝陛下は叫んだ。
「ということは……本当の聖女は……?」
私は心の中でガッツポーズをした。
「この私、エミリー・バレットです!」
私は止めの一撃をジューンに繰り出した。
「さあ、ジューン!あなたも確かめて御覧なさい!」
ジューンは完全に何もできなくなった。
「あら?どうしたの?聖女なんでしょう?でも可笑しいわね?聖女はこの世界に一人しかいないはずよね?私はどうも聖女みたいだけど、そうすると二人いることになってしまうわね?私は別にそれでもいいんだけど?さあ、とりあえず確認しましょうよ?二人仲良く聖女をやれるなら、私嬉しいわ!!!」
私が高笑いしていると、皇帝陛下が突如、私の前に跪いた。
「聖女様!!!戯言はもう止めにしましょう……」
皇帝陛下が平伏したことで、私が聖女であることが知れ渡った。ジューンは、とっくに行き場を失っていた。
聖女は言わば、神と、その子孫の橋渡しをする存在なのだ。
私はいま、皇帝陛下と令嬢ジューン・バレットの婚約式に参列している。ちなみに、ジューンは私の妹である。
どうして、私が妹の婚約式に参加しているのかって?家族だから当然である。本来、私が婚約するはずだったのに、皇帝陛下は妹のジューンを選ぶことになった。それは、ジューンが、自らを聖女だと名乗ったからである。
聖女かどうか、客観的に区別する方法は今のところ一つしかない。それは一種の儀式である。古くより伝わる王家の秘宝、命を司るとされる小刀を用いる。小刀を自分の胸に突き刺す。凡人であれば、そのまま死んでしまうが、聖女には効果がない。つまり、いくら心臓を突き刺したとしても、正確には一度死ぬことになるのだが、復活するのだ。
聖女の寿命はぴったり100年と決まっている。その間は絶対に死なない。逆に言うと、寿命を迎えれば必ず死に、聖女は新しい令嬢に引き継がれることになるのだ。
このように確かめる方法はあるのだが、方法が残忍であるため、最近、この儀式が行われることはなくなった。では、どのように聖女だと推定するのだろうか?それは、産まれた時の様子、幼少期の発達などをおおよそ評価する。例えば、聖女は普通の令嬢よりも体の発育が遅い。そして、普通の令嬢よりも容姿が幼い。最後に、人と滅多に話さない。これは、共に神に仕える天使をまねているという噂がある。この3つの条件に、私は当てはまった。故に、お父様はすぐさま王朝に聖女申請を行った。私以外にも当てはまる人間はいるとお思いだろう?しかしながら、3つ目の条件を満たす令嬢は中々いないのである。
王朝から役人が使わされて、私が聖女であると、仮の契約が結ばれることになった。従って、私は産まれた時から、時の皇帝陛下と婚約することが運命づけられた。皇帝陛下はときおり、私の家を訪れて、
「いかがお過ごしですか?」
と、私の様子を見舞うことがあった。ちなみに、聖女は皇帝陛下よりも格式が高いので、皇帝陛下の方が、子供である私の前に跪いた。
「この方は誰ですか?」
私は当時、事情がよくわからなかったので、皇帝陛下に随分と無礼を働いた。正式には、家臣のような者なので、別に無礼には当たらないのだが。
私は皇帝陛下と婚約する未来を、なんとなく思い描いていた。夢ではなく、それが現実になることを知っていた。
それなのに……。
突然、妹のジューンが、自分は聖女であると王朝に名乗り出たのだ。王朝は当然却下したのだが、そこに偶然居合わせた皇帝陛下の目に、ジューンが止まってしまったのだ。
そう、だから事故なのである。あのとき、ジューンと皇帝陛下が出会わなければ、今のようにはなっていないのだ。皇帝陛下は、私よりも格段に大人びて美しいジューンに一目ぼれしてしまった。彼女の容姿は抜きんでていて、複数の有力貴族から、婚約を申し込まれていた。だが、ジューンは満足しなかった。あくまでも、皇帝陛下と婚約することだけを考えていた。
そして、それは現実になった。ジューンは私の方を時折、チラチラと振り返って、笑っていた。私は別に、どうしても皇帝陛下と婚約したかったわけではない。しかしながら、聖女という厳正な地位を辱めようとするジューンの行いには我慢できなかった。
噂によれば、ジューンは皇帝陛下と、既に一夜を過ごしてしまったそうだ!別に、聖女が殿方と寝てはいけないという決まりはない。だが……順番というものがあるだろう!
私は段々、ジューンの顔を見ていると、憎たらしくなってきた。皇帝陛下だって、どうして私が聖女かどうか、考えないのだろうか?ジューンの言葉だけを鵜呑みにしてしまうのか?
だから、叫んでやったのさ。
「恐れながら、ジューン・バレットは聖女でないと思います!この際ですから、聖女を確かめる儀式を行うのはいかがでしょうか?」
私がこう言うと、
「お姉様!いきなり何をおっしゃいますの?」
と、ジューンが早速動揺し始めた。
「もとはと言えば、私が聖女候補の筆頭だったわけでございますから!お父様、お母様?そうでしょう?」
二人はあからさまに迷惑そうな顔をした。娘の婚約が台無しになってしまうことを憂えているのだろうか?
だったら、私のことはどうでもいいのか?
私は妹、両親、そして、皇帝陛下に、それぞれ違う憤りをぶつけた。
「さあ、確かめましょうよ!皇帝陛下、王家に伝わる小刀を持ってきてくださいまし!さあ、早く!」
聴衆たちがざわつき始めた。このまま何もなかったことにできるはずもなく、皇帝陛下は小刀を準備した。
「さあ、ジューン!あなたは聖女なのだから、先に試して御覧なさい!!!」
私はジューンに小刀を差し出した。
「おおお…お姉様からどうぞ……」
ジューンは、完全に冷静でいられなかった。
「そう?ならいいわ。皇帝陛下、私に小刀を!」
皇帝陛下の手も震えていた。このまま、私が死んでしまったら、後味が悪いのだろう。だがしかし、聖女と関わるのだから、それくらいの覚悟はないといけない。
「いきますよ!!!」
私は思いっきり、小刀を胸に突き刺した。不思議なことに、一度身体が宙に浮いた心地がした。でもすぐに、戻った。私は死ななかった。
「信じられない!」
皇帝陛下は叫んだ。
「ということは……本当の聖女は……?」
私は心の中でガッツポーズをした。
「この私、エミリー・バレットです!」
私は止めの一撃をジューンに繰り出した。
「さあ、ジューン!あなたも確かめて御覧なさい!」
ジューンは完全に何もできなくなった。
「あら?どうしたの?聖女なんでしょう?でも可笑しいわね?聖女はこの世界に一人しかいないはずよね?私はどうも聖女みたいだけど、そうすると二人いることになってしまうわね?私は別にそれでもいいんだけど?さあ、とりあえず確認しましょうよ?二人仲良く聖女をやれるなら、私嬉しいわ!!!」
私が高笑いしていると、皇帝陛下が突如、私の前に跪いた。
「聖女様!!!戯言はもう止めにしましょう……」
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