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しおりを挟む「とても、お世話になったようで申し訳ない」
アルビレオは深々と頭を下げた。
初対面の態度の悪さを思い出して、どこか気まずそうにしているように見えた。
「いえ、お気になさらず。とても、楽しく過ごせましたから」
「って、アデラインさんが言っているわ」
私の返しにデネブが、楽しそうに反応した。
何というかお互いに凄く打ち解けたような気がする。
「あと、一つ提案をしてもよろしいでしょうか」
デネブと過ごしながらずっと考えていた事があった。
「何か?」
「もしよろしければ、貴方が長く家を空ける時は、デネブさんにはこちらで滞在してもらうのはどうでしょうか」
「それじゃ、迷惑をかけてしまうわ」
「そうだ、そこまでしてもらう理由はない」
デネブは申し訳ない。と言い、アルビレオは理由がない。と言う。何というか対照的だと思った。
「ですが、今回の件もありますし、こちらでしたらすぐに医師を呼ぶことができますし」
そう返すと、二人は考える素振りを見せる。
同じことが起きないとは言い切れないからだろう。
「離れている間に何かあったらと思うと、その、やはり人目があった方がすぐに気が付きますし」
言いながらアークの事を思い出す。彼は周囲に見守られて異変にすぐ気がついたが、デネブの場合は誰にも気づいてもらえない可能性が高い。
「私と顔を合わせるのが嫌でしたら、マーサが他の使用人に声をかけてもらえればそれで構いません」
アルビレオは、親切心で声をかけている私に警戒しているのかもしれない。
それなら、無理して顔を合わせない方がいいだろう。
「何でそこまでしてくれるんだ」
「私、お友達がここにいないの。客室もいつも綺麗にしてくれているけど、誰も泊まってくれないんじゃ張り合いがないでしょう?デネブさんと話すのが楽しいの」
「それなら、お言葉に甘えて」
寂しいのだと言うと、アルビレオはそれなら。と納得してくれた。
アルビレオと今後滅多に会うことはないだろう。と、思っていたが予想は覆された。
アルビレオは、律儀な性格なのだろう。
デネブが私の屋敷に滞在する時と帰る時は必ず挨拶にやって来た。
「その、無理して私のところに来なくてもいいのよ」
「僕がそうしたいから、しているだけです。貴女のおかげでデネブも楽しそうなんです。使用人もいるとはいえ、僕たちは二人きりですから」
二人きり。という言葉に心がざわめく。
ああ、羨ましい……。
もしも、という未来を想像して胸が苦しくなった。
デネブを妬ましいとは思わないけれど。羨ましいと思うようになったのは、アルビレオのせいかもしれない。
アルビレオはデネブを深く愛しているのが見てとれた。
今日も、屋敷のバルコニーから二人が砂浜を歩くのが見える。
かつては、歩けなくなっていったアークとバルコニーから砂浜を見るのが日課だった。
アークとの思い出を噛み締めようとしても、少しずつその痕跡は消えていく。
アルビレオと目が合った。デネブに声をかけるだろうと思い。手を振ろうと手を挙げる。
しかし、彼はデネブに声をかけようとはしなかった。
しばらく彼は私を見て、名残惜しそうに目を逸らした。デネブに声をかけることはなかった。
振ることができなかった手は迷子になり、そのまま降ろされた。
まるで、お前はずっと一人だと言われているような気分になった。
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