上 下
1 / 2

1

しおりを挟む
デートリヒには婚約者がいる。
彼の名前は、アルタイルといいデートリヒと同い年だ。
二人の両親は仲がよく家族ぐるみの付き合いがあった。
そのため、遊ぶことが多かった。

二人の関係性を一言で表すと「最悪」。

アルタイルの皮肉にデートリヒがブチ切れるという流れ作業を会うたびに行っていた。

その関係性は、式が間近に迫っていても変わらなかった。

「僕たちは本当に結婚するんだな」

久しぶりの茶会で、アルタイルは何の感情もなくそう言った。
デートリヒは、その物言いに不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
嫌なら嫌とはっきりと言えばいいだろうと言わんばかりに。

「そうよ。今更怖気付いているのかしら?」

「はっ、そんな事はない。君との結婚生活が楽しみだよ」

デートリヒの馬鹿にするような物言いにアルタイルは、心にもないことを返す。
いつもの皮肉にデートリヒの堪忍袋の尾が切れた。

「結婚が墓場とはよく言ったものね。生き地獄しか待っていないんですもの。アンタの結婚生活とか本当に無理!最悪よ最悪!」


「なんだと!?」

デートリヒのキツイ物言いにアルタイルは、同じように腹を立てる。

「事実を言っただけよ!」


そこから始まる暴言の応酬は、客観的に痴話喧嘩にも見えなくもない。
本当は二人とも憎からず思っているのだが、幼い頃からの付き合いゆえに素直になれずにいた。
周りはもちろんそれに気がついていたが、二人はへそ曲がりなので気が付かないふりをしていた。

「デートリヒ。お前とは白い結婚をするつもりだ」


「あらそう、望むところよ」

アルタイルのトドメの言葉にもデートリヒはどうでも良さそうに返事をした。

「悲しみもしないのか?」

怒る様子もないデートリヒにアルタイルは、拍子抜けしたような顔をした。

「……離婚するのが待ち遠しいわね」

「結婚もしていないのにそんなことを言うな!」

ふふふ、と楽しげな顔をするデートリヒに、アルタイルは怒り出した。

しばらく口喧嘩をした後に「結婚したことを絶対に後悔させてやる!」と、アルタイルは謎の捨て台詞を吐いて帰っていった。

残されたデートリヒは、俯いて唇を噛み締める。

「今更、素直になったところで何の意味もないわ」

デートリヒは知っていた。アルタイルに恋人がいることを。
二人が一緒にいる姿を見た事はないが、友人たちからそういった情報はよく聞かされていたのだ。
今更素直になって、余計なことを言ってアルタイルを困惑させるつもりはない。
だから、自分の気持ちを見て見ぬ振りをする。

「邪魔者は早くいなくならないとね」

結婚後は、別荘にでも行って二人の視界に入らないようにしよう。離婚後はどこに行こうか。
デートリヒはぼんやりとそんなことを考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

親友の妊娠によって婚約破棄されました。

五月ふう
恋愛
「ここ開けてよ!レイ!!」 部屋の前から、 リークの声が聞こえる。 「いやだ!!  私と婚約してる間に、エレナと子供 を作ったんでしょ?!」 あぁ、 こんな感傷的になりたくないのに。 「違う!  俺はエレナと何もしてない!」 「嘘つき!!  わたし、  ちゃんと聞いたんだから!!」 知りたくなんて、無かった。 エレナの妊娠にも  自分の気持ちにも。   気づいたら傷つくだけだって、 分かっていたから。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

陰で泣くとか無理なので

中田カナ
恋愛
婚約者である王太子殿下のご学友達に陰口を叩かれていたけれど、泣き寝入りなんて趣味じゃない。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

【短編】浮気症の公爵様から離縁されるのを待っていましたが、彼はこの婚姻を続けるつもりのようです。私を利用しようとしたって無駄ですよ、公爵様?

五月ふう
恋愛
「私と離縁してくれますか?公爵様?」 16歳のとき、ユナ・ハクストルは公爵リューク・イタルクに嫁いだ。 愛とは何か。恋とは何か。 まだ何も知らない彼女は公爵との幸せな未来を夢見ていた。だが、リュークには10人を超える愛人がいて、ユナを愛するつもりは無かった。 ねぇ、公爵様。私を馬鹿にしていると痛い目を見ますよ?

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

【完】婚約者には好きな人がいるようなので身を引いて婚約解消しようと思います

咲貴
恋愛
「…セレーネ、大事な話が…」 「ヴァルフレード様、婚約を解消しましょう」 「…は?」  ヴァルフレード様はプレスティ伯爵家の嫡男で、モルテード子爵家の娘である私セレーネ・モルテードの婚約者だ。  精悍な顔立ちの寡黙な方で、騎士団に所属する騎士として日々精進されていてとても素敵な方。  私達の関係は良好なはずだったのに、どうやらヴァルフレード様には別に好きな人がいるみたいで…。  わかりました、私が悪役になりましょう。 ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています    

処理中です...