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赤信号を渡ろうとする子どもの姿が見えたのだ。
クラクション音が響く。
私は気がついたら走り出していた。
「危ない!」
車から引き離すように子供を押した時、目に入ったのはしわくちゃの自分の手だった。
強い衝撃と痛みと共に、私の意識は真っ黒に染まった。
私が消える時やっと手塚に会える。と、どこかで安堵していた。
消えた。と、思っていた私は目が覚めるかのように、意識が戻っていた。
「俺のことをどう思ってる?」
そこにいたのはあの時のままの手塚だった。
彼はいつになく真剣な表情で私を見つめていた。
これは、夢なのだろうか?あるいは走馬灯なのか。
「……やっと会えた」
最期に手塚に会えるなんて私は思いもしなかった。
「何言ってるんだ?」
その反応。あまりにも私の知っている手塚のままで、だんだんと腹が立ってきた。
待つのがあまりにも長すぎたのだ。
「嫌いよ!アンタのことなんか!」
私は勢いよく手塚の手を叩いた。
今気がついたが、私の手も手塚の手もみずみずしい。
まるで若返ったようだ。
「うわ、ちょっと、なんで俺叩かれるの!?」
手塚は、突然手を叩かれたというのに、怒るよりも戸惑っている。
それも、私が知っている手塚のままだ。
そんなことよりも、手塚の手の感触があまりにもリアルなのだ。
まるで、肉体を本当に持っているかのように。
「ど、どれだけ、どれだけ私は……」
ずっと、好きだと言いたかった。あの日から、会えなくなって。
ただ、その一言が言いたくて、もう二度と言えなくて、とても苦しい日々を過ごした。
私の両目から大粒の涙がこぼれ出てきた。
そういえば、手塚が亡くなってから一度も泣いたことはなかった。
自分にそんな資格なんてないと思っていたし、まだ、彼の死を受け入れてなかったからだ。
「あ、泣くな。おい、落ち着け」
手塚は、突然情緒不安定になった私を怒るどころか、慰めようとして必死だ。
「うっ、くっ」
大丈夫だ。と、言いたいのに、口から出てくるのは嗚咽だけだ。
「もう、話なんかできないな。帰ろう」
手塚は、泣き続ける私に、困った顔で微笑む。
やっぱり、私の知っている手塚だ。
「一緒に帰る」
手塚一人で帰したら、きっと、あの時と同じようになる気がした。
「わかった。同じタクシーに乗ろう」
手塚は、慰めるように私の肩を撫でた。
一緒にタクシーに乗るどころか、彼を安全に送り届けなければいけない。
「一緒に手塚の家に帰る」
「……!」
手塚は急に固まって、なぜか顔を真っ赤にさせた。
タクシーが来ても、私の涙は止まらない。
これじゃあ、手塚が私を泣かせているようにしか見えないじゃないか。
止めよう。止めよう。と、思うのに止まらない。
なんだか、本当に生きているみたい。
あまりにもリアルだ。
「泣きすぎ。いつになったら涙が止まるんだよ」
口調は呆れているのに、手塚の温かな手が私の目尻を優しく拭った。
もしかして、これって現実なのでは?
私はそう思いかける。
「……止まらないよ。きっと、一生分流れると思うから」
これが、もしも現実だとしても、私は確かに手塚を失ってたくさんの月日を過ごした感覚は残っている。
その喪失感と後悔はいまだに胸の中にある。
「待ってるよ。泣き止むまで、泣き止んだらちゃんと答え聞かせてくれよ」
手塚は、困った顔で微笑んだ。
私は「うん」と返事をして頷く。
今度こそちゃんと好きだと言おう。
思いを伝えられたら、きっと、今死んでも後悔なんてしないから。
~~~
最後までお付き合いくださりありがとうございます
オチはあえてです。想像にお任せします
なんか、たまにこういうものを書きたくなるんですよね
感想、エールもらえるととても嬉しいです
赤信号を渡ろうとする子どもの姿が見えたのだ。
クラクション音が響く。
私は気がついたら走り出していた。
「危ない!」
車から引き離すように子供を押した時、目に入ったのはしわくちゃの自分の手だった。
強い衝撃と痛みと共に、私の意識は真っ黒に染まった。
私が消える時やっと手塚に会える。と、どこかで安堵していた。
消えた。と、思っていた私は目が覚めるかのように、意識が戻っていた。
「俺のことをどう思ってる?」
そこにいたのはあの時のままの手塚だった。
彼はいつになく真剣な表情で私を見つめていた。
これは、夢なのだろうか?あるいは走馬灯なのか。
「……やっと会えた」
最期に手塚に会えるなんて私は思いもしなかった。
「何言ってるんだ?」
その反応。あまりにも私の知っている手塚のままで、だんだんと腹が立ってきた。
待つのがあまりにも長すぎたのだ。
「嫌いよ!アンタのことなんか!」
私は勢いよく手塚の手を叩いた。
今気がついたが、私の手も手塚の手もみずみずしい。
まるで若返ったようだ。
「うわ、ちょっと、なんで俺叩かれるの!?」
手塚は、突然手を叩かれたというのに、怒るよりも戸惑っている。
それも、私が知っている手塚のままだ。
そんなことよりも、手塚の手の感触があまりにもリアルなのだ。
まるで、肉体を本当に持っているかのように。
「ど、どれだけ、どれだけ私は……」
ずっと、好きだと言いたかった。あの日から、会えなくなって。
ただ、その一言が言いたくて、もう二度と言えなくて、とても苦しい日々を過ごした。
私の両目から大粒の涙がこぼれ出てきた。
そういえば、手塚が亡くなってから一度も泣いたことはなかった。
自分にそんな資格なんてないと思っていたし、まだ、彼の死を受け入れてなかったからだ。
「あ、泣くな。おい、落ち着け」
手塚は、突然情緒不安定になった私を怒るどころか、慰めようとして必死だ。
「うっ、くっ」
大丈夫だ。と、言いたいのに、口から出てくるのは嗚咽だけだ。
「もう、話なんかできないな。帰ろう」
手塚は、泣き続ける私に、困った顔で微笑む。
やっぱり、私の知っている手塚だ。
「一緒に帰る」
手塚一人で帰したら、きっと、あの時と同じようになる気がした。
「わかった。同じタクシーに乗ろう」
手塚は、慰めるように私の肩を撫でた。
一緒にタクシーに乗るどころか、彼を安全に送り届けなければいけない。
「一緒に手塚の家に帰る」
「……!」
手塚は急に固まって、なぜか顔を真っ赤にさせた。
タクシーが来ても、私の涙は止まらない。
これじゃあ、手塚が私を泣かせているようにしか見えないじゃないか。
止めよう。止めよう。と、思うのに止まらない。
なんだか、本当に生きているみたい。
あまりにもリアルだ。
「泣きすぎ。いつになったら涙が止まるんだよ」
口調は呆れているのに、手塚の温かな手が私の目尻を優しく拭った。
もしかして、これって現実なのでは?
私はそう思いかける。
「……止まらないよ。きっと、一生分流れると思うから」
これが、もしも現実だとしても、私は確かに手塚を失ってたくさんの月日を過ごした感覚は残っている。
その喪失感と後悔はいまだに胸の中にある。
「待ってるよ。泣き止むまで、泣き止んだらちゃんと答え聞かせてくれよ」
手塚は、困った顔で微笑んだ。
私は「うん」と返事をして頷く。
今度こそちゃんと好きだと言おう。
思いを伝えられたら、きっと、今死んでも後悔なんてしないから。
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なんか、たまにこういうものを書きたくなるんですよね
感想、エールもらえるととても嬉しいです
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