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しおりを挟む「で、何があったの?」
食堂に入るなり。そう言われて面食らう。
やはり、表面上取り繕った所で彼には全てお見通しかもしれない。
相談した所で、バカにしたり、憐れんだりする事はないとわかり切っていても。
自分の愚かさを言うのは辛いものがある。
「な、何もないってば」
私は否定しつつも目を伏せる。
「本当に?いつも、何かある時、由寿さんって目を伏せるよね」
エスパーか。もはや言葉すら出てこない。
「……」
彼の洞察力は一体なんなんだろう。
親しい異性が少ないせいで正孝基準で考えてしまうけれど、ここまで察しが良いと女性にモテるものじゃないのか。
しかし、彼には女性の影がチラついた事は一度もない。
本当に何者なの!?
「あ、やっぱり図星だ。僕に何か出来ることってある?」
そう言って、彼は困ったような表情で首を傾ける。
頼りたい。けれど、そんな事できるわけがない。
そう、だって……。
「ないわよ」
私は慌ててあの時の事を頭から追いやった。
顔が熱くなってくるのを感じながら、この人に頼らない方法でどうにか、正己の件を乗り切らなくてはならない。
「本当に?かなり困ってるようなかんじだけど。これは、友達として心配してるんだけど」
そう言われて、私は自分の自惚れ加減に呆れてしまいそうになる。
あの時と、今は違う。
友達として彼は相談に乗ってくれる。と言ってくれた。
それなら別に良いか。
「うん、実はね」
私は事の顛末を掻い摘んで彼に話した。もちろん、正己が好きだった事は伏せてではあるが。
高梨は、実際にどう思っているかわからないけど、真剣に聞いている態度をとってくれた。
「なるほど。見栄を張ったら困り果ててしまったと」
「ぐっ、うん」
言ってしまったらその通りだ。
しかし、これは言われると胸にくるものがある。
「じゃあ、僕と行く?」
「え?」
当然のような申し出に、私はなんと答えて良いか悩んでしまう。
飛びつくべきか。それとも、固辞すべきか。
「予定もないし。困ってる友達を見て見ぬふりなんてできないでしょ」
「持つべきものは友達ね」
高梨は困っている私に友達として、手を差し伸べてくれるのだ。
それなら、甘えても良いかもしれない。
「調子いいなぁ。日時が決まったら教えてくれるかな?」
「本当にありがとう。決まったら教えるね」
「いいよ。まあ、由寿さんにはいいところを見せたいからね」
そう言って高梨は、ニンマリと微笑んだ。何か企んでいるような嫌な笑顔だ。
「悪いようにはしないから」
さらに不安感を煽るような事をいわれて、私はすがりつくべき人を間違えたのだと改めて気づかさせられた。
「怖い」
「ただ、由寿さんに良いところを見せたいだけさ」
そう言われて、ますます不安になった。
「明後日、日曜日だけど空いてる?」
そう言われて、私の真っ白なスケジュール帳が頭の中で展開される。間違いなく暇だ。行くとしても食品や日用品を買う程度の事しかしない。
24時間年中無休で仕事以外、私は暇だ。
もしも、何かあるとしたら正己が会いたいと言った時だけだ。
考えてみるとあまりにも虚しい。
「空いてるけど」
「少し話し合いしようか」
確かにぶっつけ本番はあまりにもリスクが高い。
話し合いは多少必要かもしれない。
「ええ、そうね」
「デートだね」
高梨はニッコリと笑った。
「ごめん。友達とお出かけだったね」
わざとらしく訂正する彼にやはり不安しか残らなかった。
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