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乞いする女
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乞いする女
医務室に入ると誰も人はおらず、信木はベッドに横たわった。
信木はよほど調子が悪いのか不安げな顔で私を見ている。
「八王子さんって、姫川さんと親しいんですか?」
信木の突然の質問に私は驚いて瞬きする。
今までどんな男性社員と話していても彼女がわざわざそんな事を聞いてくる事はなかった。
弓削に対してもそうだ。
「え、なんでそう思うの?」
会社で姫川と親しいと言えるのか正直微妙だ。
話しかけられる事は多くなった気がするが挨拶だけだ。
その挨拶が増えた気もするけれど、プライベートで何回か会ったから、気を遣って声をかけているようにしか思えない。
「なんだかいつも馴れ馴れしく声をかけている気がして……、最近よく話してますよね」
姫川が馴れ馴れしいかどうかは置いておいて、信木が気になるという事は、客観的に見ても声をかけられているのだろう。
しちゃったし、徐々にフェードアウトしていくと思うから気が付かないで欲しかった。
「同期なんだし、たまたまじゃないかな」
「同期だったことも覚えてなかったのに」
適当に理由なんて無さそうだ。と、返すと、信木が痛いところを突いてきた。
「ま、まあ、そういう時もあるよね。私が同期か覚えてるか気になって声かけてたのかもよ」
そもそも、姫川が私に声をかけてくる理由なんてわかるわけがない。
それに、声をかけていると言い切るのも微妙なラインだ。言い訳をしながら気がついた。
「私、ああいう人信用できない」
信木の人を断定するかの物言いに頭が痛くなってきた。
そういえば、彼女は入社した時から、こういう事を平気で言う人だった。
やめてほしい。そういうのは好きじゃない。と、ハッキリと言ったら二度と言わなくなったけれど。
……誰かと親しくなる前に、知らない間に人間関係を壊されていたのかもしれない。今更だが。
「なんでそんなこというの」
「イケメンで性格が良くて、女子からモテてるからです」
「あの外見なら当然だよ。モテるからって信用できないって決めつけるのは良くないよ」
「それに、私たちが外されてるの知ってるのに見て見ぬふりしてたじゃないですか」
「姫川さんは、関係ないでしょ。それに、彼も外されてたんだから何も出来ないのは仕方ないんじゃない?」
信木は、必死に姫川を貶めようとしているようにも見える。
「私、あの人がどんな人と付き合って別れたか知ってるんですよ」
「そりゃ、あの年まで恋人が居なかった事なんてないでしょうよ」
私同様に人間関係が狭い信木が知っているという事は姫川の異性関係は、派手なのかもしれない。
だけど、手慣れたセックスを見ている限り納得しかなかった。
あれだけ上手だもの。納得だわ。経験ないのに上手な方がちょっと怖いし。
異性関係が派手でも最低限のルールやマナーを守ってるんだし、何も悪く言われる理由なんてないじゃない。
彼の女癖の悪さを聞いたことなんて一度もない。
何だか腹が立ってきた。
「そうですよ。だからこそですよ」
だからこそ何なんのよ。
うんざりとしてしまう。姫川の事を知らないのはお互い様だ。
表面上しか知らない彼の内面をなぜ語れるというのか。
私は姫川の全てを知っているかのように腹を立てていることに気がついて、冷静になる。
たった一度寝ただけで、全てを知っている彼女ツラするなんて烏滸がましいにも程がある。
途端に、自分自身が恥ずかしくなってきた。
何様のつもりなのだろう。
「……勘違いしたらダメです。あの人は誰に対しても優しくて親切だから、自分が特別とか思わない方が」
信木が言いたいのはつまりそういう事のようだ。
姫川を好きになるな。と、それだけ。
私も「一度寝ただけで彼女面」するつもりなんてもちろんない。
「姫川さんが誰にも優しいのはこの会社で誰もが知ってることだよ」
彼の優しさに深い意味なんてない。私は特別でも何でもない。
「ちゃんとわかっていてくれて、よかった。八王子さんは、絶対に恋愛なんてしないで、ただ、傷つくだけです」
信木は心配そうな顔をして、いかにも私のためだと「恋をするな」と警告してくる。
「あ、違うんですよ。騙されるとかそういう事じゃなくて、八王子さんが傷つくのが許せないんです」
私が恋愛に向いていない。と、思うようになったのはいつだろうか。ふと、そんなことが気になり始める。
だけど、事実だ。
「……もう、わかってる事を言わないでよ。姫川さんにそういう感情なんて持たないわよ。だから、心配しないで」
私は気になることから目を逸らした。
目を向けたところでもう手遅れだから。
「良かった」
信木は、私に恋する女のような熱っぽい潤んだ目をして微笑んだ。
恋をしていいのは、こういう可愛い子だけだ。私みたいな可愛げのない女はしてはいけないんだ。
そう心の中で言い聞かせた。
~~~
風邪でしばらく休みます
アヘ顔ダブルピース
医務室に入ると誰も人はおらず、信木はベッドに横たわった。
信木はよほど調子が悪いのか不安げな顔で私を見ている。
「八王子さんって、姫川さんと親しいんですか?」
信木の突然の質問に私は驚いて瞬きする。
今までどんな男性社員と話していても彼女がわざわざそんな事を聞いてくる事はなかった。
弓削に対してもそうだ。
「え、なんでそう思うの?」
会社で姫川と親しいと言えるのか正直微妙だ。
話しかけられる事は多くなった気がするが挨拶だけだ。
その挨拶が増えた気もするけれど、プライベートで何回か会ったから、気を遣って声をかけているようにしか思えない。
「なんだかいつも馴れ馴れしく声をかけている気がして……、最近よく話してますよね」
姫川が馴れ馴れしいかどうかは置いておいて、信木が気になるという事は、客観的に見ても声をかけられているのだろう。
しちゃったし、徐々にフェードアウトしていくと思うから気が付かないで欲しかった。
「同期なんだし、たまたまじゃないかな」
「同期だったことも覚えてなかったのに」
適当に理由なんて無さそうだ。と、返すと、信木が痛いところを突いてきた。
「ま、まあ、そういう時もあるよね。私が同期か覚えてるか気になって声かけてたのかもよ」
そもそも、姫川が私に声をかけてくる理由なんてわかるわけがない。
それに、声をかけていると言い切るのも微妙なラインだ。言い訳をしながら気がついた。
「私、ああいう人信用できない」
信木の人を断定するかの物言いに頭が痛くなってきた。
そういえば、彼女は入社した時から、こういう事を平気で言う人だった。
やめてほしい。そういうのは好きじゃない。と、ハッキリと言ったら二度と言わなくなったけれど。
……誰かと親しくなる前に、知らない間に人間関係を壊されていたのかもしれない。今更だが。
「なんでそんなこというの」
「イケメンで性格が良くて、女子からモテてるからです」
「あの外見なら当然だよ。モテるからって信用できないって決めつけるのは良くないよ」
「それに、私たちが外されてるの知ってるのに見て見ぬふりしてたじゃないですか」
「姫川さんは、関係ないでしょ。それに、彼も外されてたんだから何も出来ないのは仕方ないんじゃない?」
信木は、必死に姫川を貶めようとしているようにも見える。
「私、あの人がどんな人と付き合って別れたか知ってるんですよ」
「そりゃ、あの年まで恋人が居なかった事なんてないでしょうよ」
私同様に人間関係が狭い信木が知っているという事は姫川の異性関係は、派手なのかもしれない。
だけど、手慣れたセックスを見ている限り納得しかなかった。
あれだけ上手だもの。納得だわ。経験ないのに上手な方がちょっと怖いし。
異性関係が派手でも最低限のルールやマナーを守ってるんだし、何も悪く言われる理由なんてないじゃない。
彼の女癖の悪さを聞いたことなんて一度もない。
何だか腹が立ってきた。
「そうですよ。だからこそですよ」
だからこそ何なんのよ。
うんざりとしてしまう。姫川の事を知らないのはお互い様だ。
表面上しか知らない彼の内面をなぜ語れるというのか。
私は姫川の全てを知っているかのように腹を立てていることに気がついて、冷静になる。
たった一度寝ただけで、全てを知っている彼女ツラするなんて烏滸がましいにも程がある。
途端に、自分自身が恥ずかしくなってきた。
何様のつもりなのだろう。
「……勘違いしたらダメです。あの人は誰に対しても優しくて親切だから、自分が特別とか思わない方が」
信木が言いたいのはつまりそういう事のようだ。
姫川を好きになるな。と、それだけ。
私も「一度寝ただけで彼女面」するつもりなんてもちろんない。
「姫川さんが誰にも優しいのはこの会社で誰もが知ってることだよ」
彼の優しさに深い意味なんてない。私は特別でも何でもない。
「ちゃんとわかっていてくれて、よかった。八王子さんは、絶対に恋愛なんてしないで、ただ、傷つくだけです」
信木は心配そうな顔をして、いかにも私のためだと「恋をするな」と警告してくる。
「あ、違うんですよ。騙されるとかそういう事じゃなくて、八王子さんが傷つくのが許せないんです」
私が恋愛に向いていない。と、思うようになったのはいつだろうか。ふと、そんなことが気になり始める。
だけど、事実だ。
「……もう、わかってる事を言わないでよ。姫川さんにそういう感情なんて持たないわよ。だから、心配しないで」
私は気になることから目を逸らした。
目を向けたところでもう手遅れだから。
「良かった」
信木は、私に恋する女のような熱っぽい潤んだ目をして微笑んだ。
恋をしていいのは、こういう可愛い子だけだ。私みたいな可愛げのない女はしてはいけないんだ。
そう心の中で言い聞かせた。
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風邪でしばらく休みます
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