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朝
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朝
「……」
目が覚めたのは日が登ってからだ。
股に何か挟まったような感覚と、倦怠感が凄まじい。
頭は重たく、なぜこんなに辛いのだろうと考えたら、行為の最中ずっと泣いていた事を思い出した。
いい年した大人が泣くなんて恥ずかしい。
羞恥心で顔を手で押さえていると、タイミングよく姫川が部屋にやってきた。
「起きました?」
彼はちゃんとスエット上下を着ていて、私は……全裸だ。
行為が終わってそのまま寝たのに、身体がベタベタしていない事に気がつく。
「あ、後処理は僕がしましたけど、シャワー浴びた方がいいかもしれません」
姫川が思い出したように、私の後始末をしてくれた事を説明してくれた。
想像するだけで、恥ずかしくて死ぬ。
「あ、ごめんなさい。迷惑かけてしまって」
行為の最中でも戸惑ったり、泣いたりしてげんなりさせてしまったのに、後始末までさせて本当に救いようがない。
「裸をずっと見られてよかったです」
姫川は、なんのことでもないと笑って見せたが、言っている事は、エゲツない下ネタで冗談でも笑えない。
「えっ」
「冗談ですよ。何か食べますか?」
姫川は、冗談だと笑った。
倦怠感のせいなのか、正直食欲はあまりない。
何か食べて気持ち悪くなって、迷惑をかけそうな気がする。
「あ、ありがとう。あまり食欲がなくて食べなくてもいいや」
「今日、どうしますか?」
食事を断ると、姫川はなぜか今日の予定を聞いてきた。
帰って寝るだけだ。他に何かする事なんてない。
「どうというと?」
「痛いですよね。僕の部屋で寝てますか?」
初体験で疲れ果てている私に気を遣って言っているのか、そんな提案をしてくれる。
そんなつもりなんてなくても、気を遣われると嬉しいものだ。
姫川には姫川の予定もあるだろうし、恋人はいなくても友人は多そうなので、大切な時間を私に割かせるのは申し訳ない。
「家の方がゆっくりできるので帰ります」
「送りますか?」
「大丈夫です」
少し残念そうな顔で、「送ろうか」と言われて、笑って固辞する。
そこまでしてもらう理由なんてないからだ。
もう、十分すぎるほど彼には良くしてもらった。これ以上何かしてもらうのは申し訳ない。
「心配なんですけど」
「大丈夫ですから」
心配そうに言い募られるのは、嬉しいけれど受けるわけにはいかない。
「すぐに支度しますので」
急かされているわけでもないのに、私は大急ぎで帰り支度を始める。
シャワーは浴びずに服を着替えながら、あのまま持ってきた服を着てしなくてよかったとしみじみ思った。
姫川さんの手が触れ物を着たら意識しそうだし。
日焼け止めだけ塗って「帰ります」と、リビングにいる姫川に声をかけて顔も見ずに玄関に向かおうとすると腕を掴まれた。
「ちょ、そのまま帰るのやめてください。せめで玄関までは見送らせてくださいよ」
所謂肉体関係だけというものは、ここまで相手がしてくれるものなのだろうか。
終わったら甘い雰囲気すら残さずに、早々に帰るものだと思っていたのだけれど。
「そ、そっか」
見送りは一度きりの関係だから、姫川なりの優しさなのだろう。
……玄関くらいまでならいいか。
姫川は、無言で玄関まで来てくれた。
「あの、ありがとう」
凄く良かった。とか、気持ちよかった。とか、そういう言葉を口にするのは恥ずかしくて、私はお礼を言うだけにした。
それでも、まだ身体は昨夜の事を忘れきれていなくて、顔が熱くなってきた。
羞恥で俯くと姫川が名前を呼んできた。
「麗さん」
顔を上げた直後、唇に温かくて柔らかい感触がした。
それが、唇だと気がつくのはすぐだった。
「……くぁゎ」
声にならない悲鳴をあげると、姫川は声を出して笑い。私の耳元に顔を近づけてきた。
「麗さん。またね」
次を匂わせるようなセリフに私は眩暈がした。
「……」
私は「何か」を答えて、姫川の顔も見ずに慌てて部屋から出た。
「……」
目が覚めたのは日が登ってからだ。
股に何か挟まったような感覚と、倦怠感が凄まじい。
頭は重たく、なぜこんなに辛いのだろうと考えたら、行為の最中ずっと泣いていた事を思い出した。
いい年した大人が泣くなんて恥ずかしい。
羞恥心で顔を手で押さえていると、タイミングよく姫川が部屋にやってきた。
「起きました?」
彼はちゃんとスエット上下を着ていて、私は……全裸だ。
行為が終わってそのまま寝たのに、身体がベタベタしていない事に気がつく。
「あ、後処理は僕がしましたけど、シャワー浴びた方がいいかもしれません」
姫川が思い出したように、私の後始末をしてくれた事を説明してくれた。
想像するだけで、恥ずかしくて死ぬ。
「あ、ごめんなさい。迷惑かけてしまって」
行為の最中でも戸惑ったり、泣いたりしてげんなりさせてしまったのに、後始末までさせて本当に救いようがない。
「裸をずっと見られてよかったです」
姫川は、なんのことでもないと笑って見せたが、言っている事は、エゲツない下ネタで冗談でも笑えない。
「えっ」
「冗談ですよ。何か食べますか?」
姫川は、冗談だと笑った。
倦怠感のせいなのか、正直食欲はあまりない。
何か食べて気持ち悪くなって、迷惑をかけそうな気がする。
「あ、ありがとう。あまり食欲がなくて食べなくてもいいや」
「今日、どうしますか?」
食事を断ると、姫川はなぜか今日の予定を聞いてきた。
帰って寝るだけだ。他に何かする事なんてない。
「どうというと?」
「痛いですよね。僕の部屋で寝てますか?」
初体験で疲れ果てている私に気を遣って言っているのか、そんな提案をしてくれる。
そんなつもりなんてなくても、気を遣われると嬉しいものだ。
姫川には姫川の予定もあるだろうし、恋人はいなくても友人は多そうなので、大切な時間を私に割かせるのは申し訳ない。
「家の方がゆっくりできるので帰ります」
「送りますか?」
「大丈夫です」
少し残念そうな顔で、「送ろうか」と言われて、笑って固辞する。
そこまでしてもらう理由なんてないからだ。
もう、十分すぎるほど彼には良くしてもらった。これ以上何かしてもらうのは申し訳ない。
「心配なんですけど」
「大丈夫ですから」
心配そうに言い募られるのは、嬉しいけれど受けるわけにはいかない。
「すぐに支度しますので」
急かされているわけでもないのに、私は大急ぎで帰り支度を始める。
シャワーは浴びずに服を着替えながら、あのまま持ってきた服を着てしなくてよかったとしみじみ思った。
姫川さんの手が触れ物を着たら意識しそうだし。
日焼け止めだけ塗って「帰ります」と、リビングにいる姫川に声をかけて顔も見ずに玄関に向かおうとすると腕を掴まれた。
「ちょ、そのまま帰るのやめてください。せめで玄関までは見送らせてくださいよ」
所謂肉体関係だけというものは、ここまで相手がしてくれるものなのだろうか。
終わったら甘い雰囲気すら残さずに、早々に帰るものだと思っていたのだけれど。
「そ、そっか」
見送りは一度きりの関係だから、姫川なりの優しさなのだろう。
……玄関くらいまでならいいか。
姫川は、無言で玄関まで来てくれた。
「あの、ありがとう」
凄く良かった。とか、気持ちよかった。とか、そういう言葉を口にするのは恥ずかしくて、私はお礼を言うだけにした。
それでも、まだ身体は昨夜の事を忘れきれていなくて、顔が熱くなってきた。
羞恥で俯くと姫川が名前を呼んできた。
「麗さん」
顔を上げた直後、唇に温かくて柔らかい感触がした。
それが、唇だと気がつくのはすぐだった。
「……くぁゎ」
声にならない悲鳴をあげると、姫川は声を出して笑い。私の耳元に顔を近づけてきた。
「麗さん。またね」
次を匂わせるようなセリフに私は眩暈がした。
「……」
私は「何か」を答えて、姫川の顔も見ずに慌てて部屋から出た。
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