恋の始め方がわからない

毛蟹葵葉

文字の大きさ
上 下
2 / 42

八王子麗は処女を喪失したい

しおりを挟む
八王子麗は処女をやめたい

「君ってインフルエンザになっても、薬じゃなくて芋焼酎飲んで治しそうだよね」

 何なのよ。それ。
 風邪を引いたら普通に病院に行くし、薬だってちゃんと飲むわよ。
 インフルエンザになった事は一度たりともないけれど、なったとしても芋焼酎で治すわけがない。
 言い返そうと思ったら、ドヤ顔で追撃がきた。

「強気な女に僕は可愛気を見出せない」

 何なのよ。この人は。
 マッチングアプリを利用して、1回目のデートをした相手に言うセリフなのかそれは。

「男に選ばれたいならもっと、従順にならないと」

 女に夢を見ているのかこの男は。

「なんで私が自分を曲げてまで、そんな事をしないとならないの?貴方はそこまでの男なの?」

 言い返してから、私はやばいと口を押さえる。
 ちょっと言いすぎたかもしれない。

 チラリと男の顔を見ると、顔をどんどん青ざめさせていった。
 まさか言い返すなんて思いもしなかった様子だ。
 だんだん、腹が立ってきた。

「私が自分の思い通りにならないから、そうやって上から押さえつけるように物を言って、いい気分になりたかっただけでしょう?」

「……」

 男は図星だったようで黙り込む。
 今まで、色々な女性にも同じ事を言って心を抉って来たのかもしれない。
 そもそも、これを言われたきっかけは肉体関係を求められて、慎重に考えたい。と、断ったからだ。

「小さい男……、身長もそうだけど、器も小さい」

 トドメの一言に男は涙目になって逃げていった。
 
 ……当然、今回のマッチングもうまくいかなかった。

「……しなくてよかった。初体験があんなんだったら死ぬほど後悔するだろうし」

 言ってから後悔した。
 私がマッチングアプリを利用している理由は、処女を喪失するためだ。
 
 あれから、思春期の失恋未満を経験してから、私は異性とは関わらないように生きてきた。
 高校も大学も女子のみの学校を選び、変に逞しくなって大人になってしまった。
 まだ青かった私は一生男と関わらないで生きていこうと思っていたが、やっぱり無理だった。
 女性しかいない会社なんてない。そもそも就職難もあり仕事を選ぶ事すらできない。
 なんとか、就職して男っ気のない日々を過ごして、気がつけば26歳になっていた。

 この年になって気がついたのだ。

 処女いらない。でも、恋はしたくない。

 そこで、合理的に考えてマッチングアプリを利用しようと考えたのだ。
 ……出会う男性はクセが強くて、すぐに「やらせろ」と言ってくるような人ばかりだった。
 
 つまり、相手を見つけるのが上手くいっていない。
 これで三人目だ。

 ……恋愛に向かない私は、そのくせ他人の恋愛には興味があって、ラブロマンスや「腐れ縁」の恋バナを聞くのが大好きだ。
 物語ではない、セックスはどんなものなのか、好奇心が強くあった。
 物語では、多幸感と快楽でどうにかなってしまうヒロイン。
 多幸感はなくても気持ちがいいなら経験してみたい。
 恋はしなくてもセックスをするのは別にいいのではないか、と、考えるように至り。相手を見つけられなくて頭を抱えている。
 
 どうせするなら、いい雰囲気でいい感じに優しくされたいと考えてしまうのはわがままなのだと思う。

 だけど、譲れないところだってある。
 
 自分勝手な人は避妊を怠るし、相手のことを思いやれない。すぐに「やらせろ」という男は間違いなくそれに当てはまると思っている。
 
 一生に一度の事だし、二度とセックスをするつもりもないので、そこだけはどうしても譲れなかった。

「帰って、別の人探そう」

 こうして、私は家に帰り再び、マッチングアプリを開いた。

 今度こそ、と、鼻息を荒くさせて。

 そこで、私は運命的な出会いをした。

 そのお陰なのかフラれたというのに、週末は楽しくその人とメッセージでのやり取りをする事ができた。

 ただ、今回は「いいな」と、思うよりも気が合いそうだな。という、印象の方が強かった。

 何だか、当初の目的からズレているような気がしなくもないけれど、なんだかんだで、楽しいのでやり取りをしていた。

 そうこうしている間に、休日は終わってしまった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

6回目のさようなら

音爽(ネソウ)
恋愛
恋人ごっこのその先は……

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

処理中です...