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名もなき令嬢の恋

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名もなき令嬢の恋

 公爵家の令嬢として生まれた私は、誰からも愛されて大切にされて育てられた。

「望む相手と結婚すればいい」

 両親はそう言ったけれど、私にはそういうのはよくわからなかった。
 なぜなら、恋なんて知らなかったからだ。
 私が恋を知ったのは、王立学園に通うようになってからだ。

 名前は、トリスタン。田舎にあるデュラン伯爵家の嫡男だ。
 漆黒の髪の毛に真っ赤な瞳は、恋愛小説から飛び出してきたヒーローのようだった。
 目立つ外見の生徒は何かとチヤホヤされていい気になってつけ上がりがちだが、彼にはそういったところはなく真面目だった。

 何人もの女子生徒から明らかなアプローチをされても、彼はまるで気が付かないかのように軽く流していた。
 なんていうか、そういうところが良かった。

「おはよう。ございます。トリスタン様」
「あ、おはようございます」

 毎日挨拶をしても、高位貴族の私を口説こうとはしなかった。
 だからこそ恋に落ちた。
 そして、トリスタンもそれは同じだった。
 
 顔を合わせれば声を交わせば、少しずつ彼の心が私に近づいてきていることがわかった。

 邪魔者の存在を知ったのは、学園での生活に慣れた頃だった。

「トリスタン様には婚約者さんはいらっしゃらないの?」

 何の気なしに聞いた質問に、トリスタンは信じられない答えを返した。

「幼馴染の凄く可愛い子が婚約者なんだ」

 私という女がいながら、他の女と婚約していたなんて。
 いや、しかし考えてみれば、女除けのために婚約者を作ったのかもしれない。
 私と結婚するために。
 ここのところ、トリスタンと毎晩のように夢の中で会っていた私は彼の愛を疑っていなかった。
 
「そうなんですの、ねえ」

 私はとりあえずの腕に自分の腕を絡めようと伸ばす。
 しかし、彼はそれをするりとかわした。
 
「あ、失礼。用事を思いついたので」

 つれない一言。
 それは照れ隠しだと私にはわかっていた。

 明確な愛の告白がないまま、私たちの秘密の関係は続いた。
 彼が仮初の婚約者を捨てて私の手を取ってくれるのをただ待ち望んでいた。

 まち続けたある日、私はようやく彼から愛の告白を受けたのだ。

 制服の胸もとに輝くペンダントは、私の瞳と同じ色をしていた。

「トリスタン様ったら、私に告白しておいて、プレゼントのペンダントは緊張して用意できなかったのね」

 私はトリスタンと同じペンダントを宝石屋に作ってもらい身につけた。
 これは実質的に彼が買ってくれたプレゼントのような物だ。

 これで彼と結婚できる。そう思った時に、あることを思い出した。

 邪魔者の存在だ。

 私はトリスタンの故郷へと向かった。
 あの女とトリスタンを別れさせるために。

 トリスタンに相応しいのは私だけだ。
 




~~~

お読みくださりありがとうございます

軽く調子崩しました
風邪なのかな?

しばらく更新お休みします

5話以内に終わらせます


エール、お気に入り登録してもらえらたら嬉しいです
感想も読みます

お返事遅くてごめんなさい
ちゃんと読んでます
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感想 74

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