今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹葵葉

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トリスタンの恋人

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 すれ違いを感じながらも、私たちはそれぞれの日常を過ごした。
 トリスタンの帰省の度に目を逸らされたり、頑なに王立学園の話を出さないところや、気になることがあったけれど。
 怖くて聞くことができなかった。
 きっと、王立学園を卒業したらそんな不安もなくなる。と、そう思っていた。

 気がつけば、トリスタンは最終学年を迎えていた。

 この頃には、贈り物も少しずつ大人びたものへと変わっていった。

 ある日。いつものように手紙と共にあるプレゼントが私のところへと届いた。

「……ペンダント?」

 最近、こちらでは婚約者にペンダントを贈り合うのが流行りなので贈ります。身につけてくれたら嬉しいです。
 卒業パーティー、もしも、都合がつくのなら一緒に参加してもらえますか?

 かなり手紙にはかなり緊張した文面でそう記されていた。
 それを見た私の不安はいつの間にか吹き飛んでいた。
 そうだ。彼が私を嫌うはずがないのだ。避けられていたのは何か理由があったから、一方的に飲み込む事をしないでちゃんと話を聞くべきだった。

 私はそう思って、ペンダントを手に取った。

 そして、ある違和感に気がつく。

「紫色?」

 ペンダントの色は紫色だったのだ。
 いつも、トリスタンが贈ってくれる物は全て、彼の色の物が多かったのに。
 今回だけは、私の色でもない宝石がはめられたペンダントだったのだ。
 なぜこの色なのか。トリスタンの色ではないのに。

「何でだろう。何もないってわかってるのに、こんなにも不安になってしまうのは」

 ふと、クロエがケンダルに言ったことを思い出す。

 ……あそこは、誘惑が多いから。

「もしかして」

 いや、そんな事ない。
 否定しようとしても、そうできない不安感が付き纏った。

 そして、それは的中した。

 王立学園の卒業をあと三ヶ月後に控えたある日、彼女が私の屋敷へとやってきた。

 彼女は、私の全身を値踏みするように見て、バカにしたように笑った。

 そして、こう言ったのだ。

「ねえ、私、トリスタンの恋人なの」

 彼女の胸に煌めくペンダントはトリスタンが私に贈った物と同じ物だった。
 そして、その宝石の色も……。

 彼女の瞳の色は紫色で、まるで、彼女のために用意されたような物に見えた。

「ああ、これ?トリスタンが私にくれたのよ。貴女のそのネックレスも私が選んだの。ねえ、トリスタンがプレゼントしてくれた。なんて思ってた?ただの機嫌取りのためのプレゼントよ」

 そこからは覚えていない。
 彼女が去るまで私は必死に涙を堪えた。

 そして、ようやく一人になると、立ち上がった。

「トリスタンと話をしないと」

 私は書き置きだけを残して、屋敷を飛び出した。



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