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贈り物
しおりを挟むトリスタンがいなくなって、すぐに寂しくなったが意外と辛くはなかった。
その理由として、サナがいてくれたからだと思う。
それと、生まれてきた甥のお陰もあった。
「……」
サナは意外にもクロエと気が合うようだった。
トリスタンはというと、忙しくてそれどころじゃなくて勉強の日々のようだ。
友達はたくさんできたようで、それなりにやっているらしい。
手紙からは、寂しさを感じていない様子が見て取れる。
『ポーリーンに逢いたいよ』
最後には、そう締めくくられていて、忘れられていないのだと思わせてくれた。
手紙と一緒にプレゼントも届くこともあった。
「可愛い。テディベアだ」
いつも、トリスタンの髪の毛と目の色と同じぬいぐるみが届いた。
これで、3個目だ。
しかし、そのプレゼントに不満を持つ人物が一人、いや、二人いた。
「何ていうか、こう、色々と言いたいことが私にはあるんですよね」
「うん、わかるわ」
サナとクロエだ。
私には何が不満なのか全くわからなかった。
「え、だって可愛いじゃない。このぬいぐるみ」
「ええ、可愛いわよ」
「この年頃ってもう少し背伸びしたいものじゃないですか、それに、何度も黒毛赤目のぬいぐるみを贈られると、部屋に置くスペースがなくなってしまいます。あと、部屋が少し暗くなる気がします」
なかなかボロクソだ。
けれど、卒業するまで贈り続けられると、大変な事になりそうな気がした。
「そうね。確かに」
「何かしてあげたいって気持ちはわかるんですけどね」
「わかるわ。気持ちだけは凄く伝わってくるのよ」
サナとクロエは顔を見合わせて、ふふふ、と笑った。
それから、トリスタンの贈り物が少しずつ変わっていった。
まず最初に、綺麗な置き物。次は可愛い栞、トリスタンの髪の毛の色のリボン。とにかく色々だった。
サナやクロエは、微笑ましくプレゼントを見ていた。
ただ、一つだけ。
「ポーリーン様って黒のリボンが似合いませんね。なんか、こう、強い色でガーンと殴られたような感じになります。リボンにだけ目がいくというか。これに合わせるとやみおち少女になりますね」
と、言われてしまった。
甥のケンダルが生まれて、慌ただしくて賑やかな毎日。
それでも、トリスタンがすぐそばにいないのが寂しかった。
考えてみれば、いつも何か面白いことがあると一番最初に話したのはトリスタンだったから。
ケンダルと初めて顔を合わせた時、私と同じ空色の瞳には私の姿がとても綺麗に映っていた事。
初めて私の手を掴んだ時、小さくて温かな手の感触が忘れられない。
そんな事ばかりトリスタンに話したくて仕方なかった。
そして、初めての長期休みの日を迎えた。
「ポーリーン!」
しばらく会わない間に、また、トリスタンの身長が伸びたようだ。
また、身長の差が広がった。
トリスタンは、別れた時とは違い落ち着いた目で私を見ていた。
そして、私も。
「久しぶりね。トリスタン」
もう、子供ではいられない。
だから、抱きつくことはもうしなかった。
私たちは少しずつ大人になっていく。
ただ、それにはきっと差が出てくるだろう。
差が伸びた身長と同じように。
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