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しおりを挟む数日後、父はなんの前触れもなく私の部屋へとやってきた。
「ちゃんとしたまともな親」ならば、倒れて目が覚めたと知った時にすぐに部屋にやってくるはずだ。
それをしないということは、つまり、デルドレーと家族との関係はそういう事なのだろう。
この段階で私は父親に権力への執着心を無くすように働きかけるのを諦めた。
「デルドレー」
父は、恐ろしいほどに冷めた目を私に向けていた。
心配どころか情けないと思っているように見える。
まともな親子関係ではないのだろう。
なんていうか、デルドレーがメンヘラになったのってこの親のせいなのかもしれないわね。
それほどまでに親としての情を感じられないのだ。
「お父様」
「倒れたと?」
「ええ、大丈夫です」
「そうじゃないと困る。お前は王子妃になければならないのだから」
その口調からは親としての情など全く感じられず。
ただの道具としてしか私のことを見ていないようだ。
「……」
すんっ、と心が冷めていくような感覚だった。
この男を家族だと思うのはやめよう。いや、そもそも、母も兄もいるのだが、一度たりとも私の顔を見にくることはなかった。
この家の人間はデルドレーのことを政略の駒としか見ていないのだろう。
「今度、王家主催のお茶会がある。殿下の目に留まるように」
どれだけ努力したところでそれは無理だろう。
なぜなら、クリストファーが愛するのはデイジーだからだ。
それに、王家はのらりくらりと婚約から逃げて、デルモン家の力を削ぐつもりだ。
それを止めるつもりもなければ、協力するつもりもない。
それほどまでに、私はデルモン家に興味はなかった。
落ちるなら勝手に落ちてくれ。という気持ちだ。
チューチュー吸い上げた金で盛大な結婚式を挙げることに対してはあまりいい気分はしないが、こいつらのために努力するよりもマシだ。
「無駄だと思いますけどね」
「は?」
私の呟きは父には聞こえていなかったようだ。
もし聞こえていたら、鬼のような形相で怒られていたはずだ。
「とにかく、クリストファー殿下に気に入られるように、お前はこの国で唯一の公女だ。それだけで価値がある」
この男は、どうしようもない人間なのだと私は思った。
デルドレーがメンヘラになった理由は間違いなく家族のせいだ。そうに決まっている。
愛情がないのだから仕方ないのかもしれない。
両親は政略結婚だった。
だからこそ、私にもそれを望むのだ。
両親が婚姻した時代とは違い。今は恋愛結婚をする貴族も増えているのだけれど。
彼らはそれを受け入れられないのだ。
その理由は単純だ。
子供が恋愛結婚をするのがずるいと思っているからだ。
誰かが幸せだからといっても、自分が不幸になるわけではないのに。
「お茶会は適当に終わらせておけばいいや」
父がいなくなり一人残された私は呟く。
誰がお前の思い通りになってやるか。と。
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