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無気力な令嬢

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父親からしたら、私をこの世界に産み出して得した事はひとつだけらしい。

「レイラ。貴様、殿下の婚約者になってからというもの、それを鼻にかけて傲慢になったな。最近はお前の顔を見るだけで吐き気がする」 

公爵家の当主である父ジョージは、ウエーブかかった金色の髪の毛の隙間から見える。グリーンの瞳を向けて、忌々しく睨み付けた。そして、破られた紙を私の顔に投げつけてきた。

「何ですか?これは」

その紙を手に取ると、どうやら手紙のようだ。その封蝋には王家の紋章であるドラゴンの印がある。

「お前がライラの手紙を破ったんだろう?」

「何を言っているのですか?私が王家の手紙にこのような事をなさると思っているのですか?」

「ライラがそう言ったが」

「お姉様がやりました。なんで嘘をつくのですか?」

ライラが嫌らしい笑みを浮かべて、ジョージに抱きつき私を見る。
ライラもジョージ同様の髪の毛の色と瞳だ。大きな瞳は全てを吸い込むように表情豊かで愛らしく見え。小柄で華奢な見た目は庇護欲をそそる。真っ黒な髪の毛とブラウンの瞳の私とは全く逆の外見だ。
彼は私の言う事を信じるつもりはないのだろう。いや、ライラが嘘をついていたとしても、私にキツく当たるのはわかっていた。
投げつけられた手紙のせいで、ずれた分厚い眼鏡を、直しながら私はジョージを冷めた目で見る。

「そうですか、だったらそうなんでしょうね」
何か言ったところで無駄ならば、否定するのも面倒だ。
「何だと、その物言いは!ライラはそのせいで、殿下との夜会に参加出来なかったんだぞ」

その殿下は私の婚約者だというのに、その妹に不貞を推奨するような親など、気が狂っている。
しかし、どうでもいい。
「お前の価値など殿下の婚約者になった事だけだ。しかし、ライラが殿下と婚姻すればお前の価値などなくなる」
「左様ですか」
しかし、ジョージの血を引いているとはいえ、ライラは娼婦の子供でしかないのだ。
上級貴族相手の婚姻ならまだしも、王族との婚姻ならば話は変わる。
それに、彼女は人に取り入ることは上手だが、勉強は全くできない。
果たして、女好きな殿下と婚姻して幸せになれるのだろうか?
それに、殿下はライラと親密な関係になる前に、何人もの女性と噂になった事があった。その度に、胸は全く痛まなかったけれど。
「せいぜい、自分の態度を振り返って、ライラに尽くすんだな」

「お父様。そのような事。私はただ反省してもらえればいいだけですから」
ライラは瞳に涙を浮かべて、わざとらしい演技をする。そうすれば、ジョージが益々私に苛立ちをぶつけることをわかっているからあえてするのだ。
「ライラ。なんと優しいんだ。それに比べてお前は……。殿下との婚姻がなくなったら、アンステラ修道院に入るか、ハーグ公爵家に嫁がせるか悩むところだな」

アンステラ修道院は、貴族の墓場と言われている修道院だ。東の砦の近くにあり、自由に出入りでき、荒くれ者の男が性の捌け口のために利用する場所だ。
いらなくなった貴族の女子がそこに詰め込まれていると言われている。
ハーグ公爵家は嗜虐趣味の変態で。彼の妻は二年単位で死んでいる。

それをジョージは脅しではなく本気で話しているのだ。ため息を吐く。どの道、私の人生は地獄しかない。
「お前が生まれてさえ来なければ、こんな苦しみも味わう必要もなかっただろうに」
ジョージが右の唇だけをつり上げて嗤う。
私は正妻の娘だった。ジョージと母は政略結婚で愛情など全くなかった。しかし、彼女は身体が弱く私を生んで数年で死んだ。
その直後だ。ライラ達親子をこの屋敷に連れてきたのは、ジョージは邪魔者である私が憎くいつも辛く当たる。
使用人は必要最小限の事しか私にはしてくれない。
しかし、私が正当な扱いを受けられているのは、この国の第三王子との婚約があるからだ。
その後ろ楯がなくなれば。貴族として扱われる事などなくなる。いや、骨の髄まで利用してジョージは私を捨て去るだろう。
どう足掻いたところで無駄だ。私は全てを受け入れるしかない。
生まれて来なければ良かったと何度も私は思い生きていた。

「お前にピッタリの末路は考えてある。楽しみに待っていろ」
ジョージはそれだけ言って、私の前から居なくなった。
恐らく、彼はアンステラ修道院にいれるか、ハーグ公爵家に嫁がせるつもりなのだろう。
そもそも、なぜか私が殿下との婚約者になってしまったから、こんなにも苦しんでいるだ。
好きでもない相手から、侮辱のような行為を繰り返されて、私は自分の価値が全くないように思うようになっていた。
仕方のない事だ。私は自分に言い聞かせる。
地獄には堕ちたくないけれど。
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