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ナイジェル3

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ナイジェル3

 レオナルドがシズリーにやってきて数日が経過した。
 どことなく、レオナルドとアストラの雰囲気が余所余所しいところに、ナイジェルは気がついていた。
 アストラは空気を読みすぎてどこか壁を作り。
 レオナルドは、アストラを今度こそ守りたいという気持ちはあるが、空回りしている自覚があり、余計な事をしないために距離を置いている。
 という状況だった。
 はじめはアストラを連れて帰ろうと鼻息を荒くしていたが、ここで、のびのびと生活しているのを見て何も言えなくなったようだ。
 ナイジェルは、これは良くないと思っていた。

 何が良くないか、というと、アストラに元気がないからだ。

 レオナルドが来てから嬉しそうにしているが、表情にどこか影があるよう見えるのだ。

 だから、ナイジェルは二人がどうなりたいのか知りたかったし、アストラの望みを叶えてやりたいと思っていた。
 アストラにされた仕打ちの原因の何割かはレオナルドにある。もちろん、やった奴が圧倒的に悪いのだが。
 
 レオナルドは謝る機会を逃しており。
 アストラはレオナルドに怒りを感じている様子も、責める気もないように見える。

 こういう時は、案外お互いに感情を露わにさせた方が心的な距離を埋められるのだが、二人の性格のせいだろうかそれが難しい。
 ただ、今の状態は良くないとナイジェルは思っていた。
 
 だから、ナイジェルはアストラに話を聞くことにした。
 ナイジェルは、二人きりで話を聞く事にした。

 そして、彼はすぐに後悔した。

 それは、アストラから漂うお花畑のような匂いのせいだった。
 幸せすぎて抱きしめてしまいたい。そんな衝動を抑えながら、ナイジェルはアストラに声をかけた。

「レオナルドの事だが、もしも、望むなら私が死ぬまで殴ってやるが」

「え、やめてください」

 ナイジェルの申し出にアストラは、わりとガチ目の拒絶をした。

「そ、そうだよな。でも、アストラは、レオナルドに腹を立ててもいいと思う」

「そうかもしれませんね」

 そこからアストラは、ぽつぽつとこうなった経緯を話し出した。
 といっても、アストラの主観によるものなので、正確かはわからないが。という前置きをされた。

「お兄様の魔力の発現と同時に王都へ行ったのですが、私が熱を出してそのまま放置されてしまって……」

 そこから、聞かされた話は信じられないもので、アストラの髪の毛は本当は銀髪だったこともナイジェルは初めて知らされた。

 ふざけるなよ。

 ナイジェルは、怒りでどうにかなりそうだったが、まだ、アストラの話が続くので聞くことに集中した。

「熱のせいで記憶が曖昧になったみたいで、レオ兄様の事を怖がってしまったんです」

 レオナルドは、自分が近づく事は良くないと思い。
 なるべく近づかないように、信用できる人間にアストラを任せたようだ。
 ただ、任せた相手が悪かった。

「レオナルドの事を恨んでいるか?」

「恨んでいないかと言えば嘘になります。誰かに任せないで自分から会いに来て欲しかった。と、思いますよ」

 アストラは、そう前置きしつつも「でも」と、付け加えた。

「お兄様は、魔力の発現もありましたし、コントロールを習うのもとても大変だったと思います。会う時間を捻出するのも難しかったとわかるんです」

 寂しそうな顔をして笑うアストラに、ナイジェルの心が痛んだ。自分が側にいればすぐにでも連れ出すことはできていたからだ。

「それにね。お兄様って頭はいいのに、とても不器用なんですよ。きっと、余計な事をして私に嫌われると思ったんでしょうね」

 アストラは困った顔で笑った。

「レオ兄さんは人付き合いが苦手で、論破したり詰めたりするのは上手なんですけどね。人に寄り添ったり、ゆっくりと距離を縮めるのが苦手なんですよ」

 それが、レオナルドの本質なのだろう。どこか弟のような存在のロシェルと重なって見えた。
 王族というよりも研究職向けの性格で人と接するよりも、研究をしていたい。そんな男だった。
 だから、人の見る目が全くない。それに、大切なところで抜けている。ついでに言うと、恐ろしいほどに空気が読めない。だから、大切な局面でやらかす。

 そんな男が信用できると研究仲間に引き入れたのは、似たもの同士だったようだ。

 アストラとレオナルドの溝はそこまで深くはなさそうだが、お互いの性格のせいで埋めるのはとても難しそうだとナイジェルは思った。

「ただ、今回の件でレオ兄様とナイジェル様たちの関係が悪くなるのは嫌ですね。仲良くしてほしいです」

 はっきりと自分の意見を言うアストラに、かなり思うところはあるのだが、望む通りにしようとナイジェルは思った。







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